体育会 その4

 蒼は山村さんの突然の告白に戸惑っていた。デートしたい相手がいるから、山村さんの買い物に付き合っていたと思っていたが、まさか山村さんの好きな人が自分だとは思わなかった。

 蒼は以前にも理恵ちゃんと、同じことがあったことを思い出す。あの時とは違い今は、はるちゃんと付き合っている。はっきりと山村さんに断るべきだた思ったが、無理に拒絶して断るのも悪い気もしてしばらくそのままだった。


「ごめん、突然で迷惑だよね。私も頑張って可愛くなるから、その時また考えて。今日はありがとう。」

 そう言って山村さんは蒼から離れた。蒼が今付き合っている人がいると伝える間もなく、山村さんは帰っていった。


 翌日の昼休み、蒼はチアダンスの練習は休んで昨日のことをはるちゃんに話した。

「という訳で、山村さんとは何もないから。」

「理恵の時とは違って、流されなかったのは良かったけど、はっきり断った訳ではないでしょ?」

「そうだけど。あんまりはっきり言うのも、山村さんに悪い気がして。」

「蒼ちゃんらしいといえば、蒼ちゃんらしいね。それにしても、蒼ちゃんモテるね。蒼ちゃん押しに弱いから、心配。」

 中学まではモテたことはなく、ハクジョ男子になってから急に蒼に好意を持ってくれる女子が増えた。最初はスカート履いた男子なんて、好きになる女子いないと思っていたが、受け入れてくれる人がいたことは嬉しい。


 チアダンスの練習は、個人の振り付けから全体のフォーメンションの練習に移った。全体練習は広い場所が必要なので、体育館かグラウンドで行うことになっている。そのため、練習場所の都合で学校が休みの土日にも練習が組まれてある。

 日曜日、蒼は体育館に入ると体育館がネットで半分に仕切られており、蒼たちのチアダンス練習用として使っていない方に、バレーボールのネットが組み立ててあった。ひょっとしてとおもっていると、はるちゃんたちバレー部が体育館に入ってきた。

「蒼ちゃん、今日は体育館で練習なんだ。」

 はるちゃんが、練習前の柔軟体操をしていた蒼に声をかける。

「うん、はるちゃんは練習午前だけ?午前だけだったら、一緒にお昼食べよう。」

「いいよ。」

 練習後のお楽しみもできたところで、やる気が出てきた。


 全体練習は今までと違い、位置取りを合わせたり、わずかな腕の上げる位置の違いも目立つので揃えないといけないので、段違いに難易度が上がっている。蒼も必死でついていこうとするが、みんなからずれてしまって、そのたびに坂本さんから怒られてしまう。

 今日は、怒られているのが後ろで練習しているはるちゃんにも聞こえているかと思うと、いつもより恥ずかしく感じる。

 練習を続けるうちに蒼が間違えた後、周りの女子たちが集まって励ましてくれたり、アドバイスをくれようになった。励まされるだけでなく、やり方のコツなど教えてもらえるので、同じミスを繰り返すことが減ってきた。

 チアノートと呼ばれる、練習日誌にもみんなから、「やればできる、諦めずに頑張ろう」など励ましのメッセージが書き込まれることが多くなった。

 

 練習の休憩中、山村さんが近くにやってきた。今までと違って明るく元気な印象を受ける。。

「山村さん、髪型変えた?」

 蒼は、山村さんの髪の結び目が今までより上で、結ばれていることに気づいた。ちょっとした違いだが、上に結び目が合った方が元気な女の子という印象を受ける。前髪も整えて、意図的に出したと思われるおくれ毛も、可愛さをアップさせている。

「森田さん見習って、頑張ってみた。似合ってる?」

「似合ってるよ。また練習にも付き合ってね。」

 蒼がほめると、山村さんは照れたように微笑んだ。


 練習が終わりはるちゃんと、駅前のファーストフードに入りお昼ごはんにする。練習で怒られて落ち込んでいる蒼をみて、はるちゃんが、

「練習頑張ってたね。時々見てたけど、最初のころよりも上手になったと思うよ。」

「今日は怒られているところを、はるちゃんに見られてちょっと恥ずかしかった。ごめん、頼りない彼氏で。」

「そんなことないよ。」

 そこまで話したこところで、

「お姉ちゃん、ポテト一本もらうね。」

 はるちゃんの妹、夏美ちゃんが突然やってきた。

「夏美、いつの間にきたの?」

「むしろ先にいたよ。あっちで部活のみんなと食べてたら、お姉ちゃん達がきて、森田さんにちょうどお願いしたいことが、あったからきてみた。」

 夏美ちゃんが指さした方向には、同級生と見られる女子が3人座っていた。

「みんな同じ部活なの?」

「そう、お姉ちゃんと同じバレー部。1年生は基礎トレで外にいたから、気づかなかったと思うけど。」

「それでお願いって。」

「数学教えるのがうまいってお姉ちゃんが言ってたから、私にも教えてもらっていいですか?」

 蒼ははるちゃんの方をみると、「いいよ」といってそうな表情だったので、

「いいけど。」

「今度連休の時にうちにきて、教えてください。」

「ちょっと夏美、家はダメだって。お母さん、お父さんいるでしょ。」

 はるちゃんにとっても、家でやるのは予定外だったみたいですぐに反論してきた。

「大丈夫だって、お父さん連休ゴルフに行くはずだし、お母さんも一度会いたいって言ってたから。」

 その後も姉妹のやり取りはつづいたが、妹の夏美ちゃんのほうが口が回るみたいではるちゃんは押し切れて、蒼の訪問が決定した。




 

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