バレンタインデー~森田蒼~

 2月13日日曜日の午後、森田蒼はフォンダンショコラを作りはじめた。明日勉強会があり、いつも通りなら終わった後はるちゃんと駅まで一緒に帰ることになる。そのときに、はるちゃんにチョコを渡して告白しようと思っていた。


 湯せんで溶かしたチョコの中にバターを入れ、別のボウルに卵と砂糖を入れてかき混ぜる。夏に料理を始めてから、お菓子もつくるようになり、少しずつ手の込んだものも作れるようになってきた。

 お菓子作りも慣れてきたとはいえ、使う砂糖やバターの量にはなれない。カロリーを気にして、いつも佐藤の分量を8割ぐらいに減らしてしまう。それでも、出来上がりは少し甘みが足りないという程度にはなる。甘みから推測して市販のお菓子に使われている砂糖やバターの量を想像すると、自然と食べ過ぎないようにしようと思ってしまう。


 粉の混ぜ合わせも終わり型に流し込み、余熱の終わったオーブンに入れる。焼き上がりまでの間に、つかったボールや器具を洗う。洗いながら、はるちゃんのことを考えてしまう。

 初めてスカートで登校した時不安な気持ちでいっぱいだったが、はるちゃんに、「前髪かわいい。」と褒められて嬉しかった。これから1年間一緒になるクラスの女子に受け入れられるか不安だったが、はるちゃんがほめてくれてスカートを履いた男子を特別視せずに受け入れてくれた。その一言で救われた気持ちになった。

 2月に部活の様子を見に行ったとき、はるちゃんは一生懸命ボールを追っていた。届きそうにもないボールにも、ジャンプして手を伸ばして必死でレシーブしようとしていた。そんなはるちゃんをみて、自分も強くなるためには自分で動き始めないいけないと心が動いた。


 焼きあがって粗熱がとれたフォンダンショコラを、一つおやつ代わりに味見してみる。まだ暖かいということもあるが、レシピの8割の砂糖でもおいしく作れた。ラッピングして、明日忘れないように鞄の中にしまっておく。


 翌日放課後になり、理恵ちゃんが2組の教室に入ってきた。あの日以来理恵ちゃんに会うのは久しぶりだ。久しぶりに会うと気まずい感じになるかと思ったが、理恵ちゃんもいつもと変わらない感じなので、蒼もいつもと変わらない感じで接する。

 勉強会が始まり理恵ちゃんが質問してきたので、いつも通りに解き方を教える。蒼から理恵ちゃんに話しかける勇気はなかったので、理恵ちゃんの方から話しかけてもらえてよかった。

 わがままかもしれないが、理恵ちゃんとはずっと友達でいたいと思っている。理恵ちゃんからもらったチョコに入っていた、メッセージカードには「これからもずっと仲良くしようね。」と書かれており、理恵ちゃんも同じ気持であったことがわかり嬉しかった。理恵ちゃんだかではなく、この4人で同じ大学に入って、そのあともずっと仲良くできたらいいなと思っている。


 勉強会も終わりいつも通り学校前のバス停で、涼ちゃんと理恵ちゃんと別れる。駅に向かってはるちゃんと歩き始める。部活やテストの話など他愛のない会話をしながら、告白するタイミングを伺う。

 交差点で赤信号で待っている間に、覚悟決めた。青信号になって横断歩道を渡り終わったら告白しよう。信号が青に変わり、歩き始めて告白までのカウントダウンが始まる。あと3歩、2歩、1歩、勇気を振り絞って、はるちゃんにチョコを渡そうとすると、はるちゃんもピンクのギンガムチェックの袋を持っていた。

「蒼ちゃん、それってバレンタイン?実は私も。」

お互いにチョコを交換した後、

「はるちゃん、好きです。付き合ってください。」

蒼は勇気を振り絞って告白した。昨日どんな風に言えばいいかをいろいろ考えたが、結局シンプルに思いを伝えることにした。

「付き合うって、理恵と付き合っていたんじゃないの?理恵と上手くいっているように見えたけど、なんで別れたの?」

「理恵ちゃんとは別れた。理恵ちゃんといると楽しいけど、理恵ちゃんに頼ってしまって、自分が成長できないと思ったから。理恵ちゃんには悪いことをしたとは思っている。でもはるちゃんと一緒に、人生歩んでいきたい。」


 蒼は思いを全部伝えた。はるちゃんはしばらく考えた後、

「蒼ちゃんって、いつも自分の事よりも他人のことを優先すると思っていたけど、そんな理由で理恵と別れたの?」

「自分勝手だけど、自分に正直に生きようと思って。今ははるちゃんと付き合いたいと思っている。遅くなってごめん。」

はるちゃんは、蒼の手を握り、

「私もずっと女の子の蒼ちゃんを、受け入れるかどうかで悩んでてごめん。あと、ずっと告白されるのを待ってたんだ。自分から蒼ちゃんに好きって言うのも変かなと思って、ふつう男から告白するよね。」

そういいながら、はるちゃんはすこし微笑んだ。

「ごめん、男らしくなくて。スカートも履いているし。普通の男でなくて、こんな私でよければ付き合って。」

「男らしくなくても、そんな蒼ちゃんが好き。これからもよろしくね。」

はるちゃんは蒼の手を握り、笑顔で答えてくれた。






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