スキー教室5

 スキー教室最終日の朝、みんなで過ごす最後の朝に寂しさを感じつつ、昨日夜遅くまでおしゃべりをしていたので眠気も感じながら、蒼は目覚めた。今日は朝食会場に制服を着て集合となっているため、前日までよりも早く起きて身支度を始める。

 ホテルについて以来、ずっとジャージで過ごしていたが4日ぶりにスカートを履く。こんなにスカートを履かなかったのは2年生になってから初めてで、久しぶりのスカートの感触に懐かしさを覚える。

 朝食会場に向かう途中、廊下ではるちゃんたちと出会い一緒に向かうことになった。

「蒼ちゃんおはよう。昨日は楽しかったね。久しぶりにスカートの蒼ちゃん見るとかわいいね。」

「はるちゃん、ありがとう。久しぶりに見るとって、いつもはかわいくないの?」

蒼はちょっとイタズラっぽい感じで言って、はるちゃんと一緒に笑いながら歩いた。


 7時の朝食の前に、8時までに荷物をもってロビーに集合との事務連絡があった。朝ごはんの焼鮭定食を食べ終わると、急いで部屋に戻り荷物をまとめる。

 ロビーに集合して点呼をとった後に、クラス毎にバスに乗り込む。バスの中で松尾先生から予定では10時頃市内中心部の駅に到着して、そこから15時まで自由行動になり、その後空港に向かうと今日のスケジュールの事務連絡があった。

 昨日UNOをしながら自由行動何をするという話になり、みんな市内にある有名な神社に行くつもりだったことがわかり、一緒に行くことになっていた。最初は涼ちゃんと二人で行くつもりだったが、8人で行くことになり修学旅行らしいにぎやかな感じになりそうだ。


 学校のバスが駅に到着後、8人揃ったところで、駅前のバス停から神社行きの市営バスに乗る。二人がけのシートに、佐藤さんと並んで座る。

「スキー楽しかったね。あと、ご飯のときもみんなで一緒に食べると楽しいかった。普段母と2人だから、みんなで食べるとにぎやかでいいね。」

蒼が佐藤さんに話しかけると、

「森田さんって、一人っ子?」

「そうだよ。佐藤さんは?」

「6歳上の兄と3歳上の姉の三人兄弟。次男だから跡継がなくていいから、気楽だよ。多分次男だからスカート履きたいって希望もすんなり通ったと思う。」

「跡継って、佐藤さんの家、家業があるの?」

「大したものではないけど、先祖代々の土地にマンションとか駐車場とかあるから、その不動産管理。ちなみに父は県議会議員で、その後も多分兄が継ぐと思う。」


 蒼は予想以上に佐藤さんの家が大きく由緒正しいことに驚いくとともに、躾けが厳しく世間体を気にする理由も納得した。

「由緒正しき家庭って感じだね。それだと、盆とか正月とか大変そう。」

「大変って訳ではないけど、男性陣は昼から酔っ払って、女性陣はずっと台所仕事。私も中学生から女の子扱いで、おせちとかおつまみとか作ってた。」

「それは大変じゃないの?」

「別に普通の事だと思うし、台所で親戚のおばちゃんたちの愚痴や、旦那さんの悪口を聞くのも楽しいよ。」


 佐藤さんは、跡継は兄の役目で、女性陣は台所仕事というのが何の疑問も持たずに受け入れているみたいだ。大富豪の地方ルールのように、世間的には珍しくても、自分の中では疑いの余地なく当たり前に存在しているのだろう。


 神社の最寄りのバス停で降りて、参道沿いにある建物に歴史を感じながら参道を歩き、百段ある階段を登ると神社の本殿がみえた。流石に市内有数の観光名所と言うだけあって、威厳と風格を感じる。みんなでお参りをして、おみくじをひく。

 蒼のおみくじは、中吉だった。理恵ちゃんがどうだったと聞いてきたので、みんなにはわからないようにこっそりおみくじを見せると、

「『学業 努力を要す』、勉強頑張んなきゃね。『恋愛 案じるより産むが易し』、どういう意味かな?私を信じてついてこいということかな?」

蒼だけに聞こえるような声でそう言って、理恵ちゃんは楽しそうにしていた。



 神社の周辺を散策した後、駅に戻り昼食をとった後、集合時間まで時間はあるということで駅ビルの屋上にある観覧車に乗ろうということになった。

 観覧車乗り場につくと、理恵ちゃんが観覧車の案内看板をみて

「スケルトンゴンドラがあるって。これにしよう。」

床が透明になっているタイプのゴンドラに乗ることを提案してきた。高いところが苦手な蒼は反対するが、多数決で押し切られ乗ることになってしまった。

 4人乗りのなので二つのグループに分かれ、蒼は佐藤さんと坂本さんと理恵ちゃんと乗ることになった。スケルトンゴンドラが来るのを順番待ちをした後に、ゴンドラが回ってきて、乗り込むことになった。

「スカートの中見えないかな?」

心配する蒼に、

「座っていれば大丈夫だよ。さあ乗ろうよ。」

理恵ちゃんに押されるように、蒼はゴンドラに乗り込む。

蒼は下を見ないようにしているが、それでも怖い。その怖がる様子をほかの3人は楽面白がっており、理恵ちゃんを見ると満足そうな笑みを返された。

 ゴンドラを降りた後、坂本さんから、

「山村さんから聞いていたけど、本当に女の子みたいな怖がり方するね。」

蒼が山村さんの方を見ると、いたずらした子供のような笑みを浮かべていた。


 いろいろな思い出のあったスキー教室もすべての日程を終え、飛行機に乗って帰るだけとなった。空港で母親にお土産を買い、飛行機に搭乗する。帰りの飛行機の席は、行きと同じで前田さんの隣だった。行きの時ほどは飛行機も怖くなく、前田さんと旅行の思い出を話していた。

前田さんは思い出したように、

「森田さん、行きの飛行機で私失礼な事言ってしまって、ごめんね。」

「失礼な事って?」

「私、スカート履く男の事理解できないって言ったよね。ごめん、多分男でスカート履くって偏見の目とかあって、苦労もあるのに何も考えずに言ってしまった。」

「よく言われるし、気にしてないから大丈夫だよ。」

「『男の娘』や『女装男子』ってあるけど、女子の楽しさのいいとこどりみたいな感じがして好きじゃなかった。女の子の日や出産によるキャリア中断とかの女性の嫌な部分はなくて、ファッションとか女子会とか楽しいどころだけ楽しんでる。」

「言われてみれば、そうだけど。」

「でもよく考えてみたら、別にそれで自分が損するわけではないから、構わないかなと思えてきた。そんなわけで、同じ女の子同士仲良くしようね。」


 飛行機も無事に着陸して、空港のロビーで解散式を行って、先生の「家に帰るまではスキー教室です。」の定番のあいさつでスキー教室は幕を閉じた。

 帰宅後、お土産の林檎タルトを母に渡すと、

「蒼、旅行は楽しかった?」

「楽しかったよ。新しい友達もたくさんできた。」

「それはよかったね。」

母は満足そうな笑顔を見せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る