スキー教室4

 スキー教室4日目の朝、蒼は少し滑れるようになってスキーの楽しさが分かってきたのに今日で終る寂しさと、高いところが苦手なのでリフトに不安を感じながら起床した。午後からリフトに乗って山頂付近まで行き、そこから滑り降りてくることになっており、朝から少し憂鬱だった。

 朝ごはんを食べながら、涼ちゃんにリフトが不安なこと相談すると、

「たまにリフトから落ちる人もいるみたいだけど、変なことしなければ大丈夫だよ。あと、リフトから降りるのが難しいから転ばないように気をつけて。」

余計に心配になることを言われた。


 午後になり、いよいろリフトに乗ることになった。4人乗りのリフトで、端っこの方が掴まるところが多そうなので、一緒に乗る人に頼んで端っこにしてもらった。

 順番がきて、リフトに乗るこむ。少しずつ高くなってきて、下を見るのが怖くなってくる。リフトのバーにしがみつくようにして、恐怖の時間が早く終ることを祈る。

「森田さん、リフト怖いの?」

隣に座っている女子生徒が話しかけてくる。

「高いのが苦手。あと、リフト降りるのも難しいって聞いてそれも怖い。」

蒼が言うと、その女子生徒は、

「降りるとき、前に体重かけていればいいみたいよ。後ろに重心があると尻もちつくって、経験者クラスの子が言ってた。」

「ありがとう。」

蒼はあまり余裕はなかったが、ひとまずお礼を言った。


 なんとかリフトから降り、一息ついて先程の女子生徒のもとにいく。ゼッケンを見ると、5組の子で山村さんと言うみたいだ。

「山村さん、さっきはありがとう。おかげで無事にリフトから降りられたよ。」

蒼が改めてお礼を言うと、

「森田さん、本当の女の子みたいな怖がり方するね。うちのクラスの佐藤さんもだけど、ハクジョ男子って女の子よりも女の子らしいよね。」

「多分男の時の思い込みで、女の子はこうあるべきというイメージに縛られているんだと思う。自分の描く女の子を演じているみたいな感じかな。」

「男子も大変ね。」

山村さんは気の毒思ったのか、憐みの表情で蒼を見た。


 怖かったリフトもなんとか終わり、山頂付近からのきれいな景色を楽しんだあと、滑り始めた。初心者用のコースなので傾斜もきつくなく、順調に滑り降りてホテルに戻ってきた。無事にみんなゴールした時に、なんともいえない達成感があったが、これでスキー教室が終わりかと思うと寂しくもあった。


 ホテルに戻りお風呂に入った後、ホテルでの最後の夕ご飯が始まった。今日のメニューは、チキンカツ定食だった。とんかつソースではなく味噌だれがかかっており、いつもと違う味で美味しく感じる。食べながら、今日のスキーの思い出を語り合って楽しい夕食となった。


 夕ご飯を食べた後部屋に戻る前に、母にお土産を買って帰ろうとホテルの売店を覗いてみることにした。定番の「行ってきましたクッキー」や「カスタードまんじゅう」はあるが、これと言っておいしそうなものがないので、明日の空港でお土産を買うことにする。売店を出ようとすると、佐藤さんと女子生徒が仲良く話しながら売店に入ってきた。佐藤さんに手を振ってすれ違い、部屋に戻る。

 部屋に戻ると誰もいなくて、売店に寄っているのか涼ちゃんも本田さんもいなかった。一人でテレビをみていると、佐藤さんが部屋に戻ってきた。蒼が声をかける、

「佐藤さん、売店であった子が佐藤さんに告白した子?」

「そうだよ。よくわかったね。同じクラスの坂本さん。」

「なんとなく、クラスメイトにしては距離感が近くて親しげだったから。可愛い子だね。付き合っちゃえばいいのに。」

「かわいくていい子なんだけどね。うちの高校って一応共学だけど、ほとんど女子高みたいなものだよね。」

「まあ、学年に男子が8人しかいないし、その男子もスカート履いてるしね。」

「女子にとっては恋愛しづらい環境で、数少ない男子だし、同性愛っぽいのが逆に萌えるとかで、ハクジョ男子に恋している自分に酔っている感じがしてね。大学行って普通の男子と絡むようになったら、簡単に振られそうだから保留してる。」

「それ彼女には伝えるの?」

「直接は言っていないけど、大学に行ってその時まだ好きだったら、付き合おうって言ってる。」

そこまで話したところで、涼ちゃんと本田さんがお土産を抱えて部屋に戻ってきた。


 男子4人戻ってきたところで、アイドルグループの中で誰が好きかについて語り合っていたら、ドアをノックする音が聞こえた。今晩も理恵ちゃんがトランプをしに来たかと思い蒼がドアを開けると、さっき売店で会った坂本さんとスキーの初心者クラスで一緒だった山村さんが立っていた。

「山村さん、こんばんは。」

蒼は坂本さんの名前を知っているのは変だと思って、山村さんだけに挨拶する。

「5組の坂本です。こんばんは。」

坂本さんがにこやかな笑顔でそう言ったところで、佐藤さんが気づき、

「坂本さん、山村さん、どうしたの?」

「さっちん、UNOやろう。」

佐藤さんは5組では「さっちん」というあだ名で呼ばれているみたいだ。


 坂本さんがUNOを始めようとカードを配ろうとしたところで、

「大富豪の時みたいにあるかもしれないから、始める前に地方ルールの確認をみんでしよう。」

涼ちゃんがそういって、昨日までの大富豪での出来事を話した。

 みんなでそれぞれ今までやっていたルールを話しみると、少しずつみんな違うルールで遊んでいたことが分かった。地方ルールの整理をしている途中に、またドアをノックする音がした。

 涼ちゃんがドアを開けに行くと、理恵ちゃんとはるちゃんが部屋に入ってきた。

「1組の東野理恵です。こんばんは。今日は人が多いね。」

理恵ちゃんは、先客の坂本さんと山村さんに気づき挨拶する。

「2組の西野はるかです。こんばんは。」

はるちゃんも理恵ちゃんにつづいて挨拶する。


 自己紹介して打ち解けたところで、今日は8人でUNOをすることになった。

「英語上がりなしって、地方ルールだったんだ。」

「チャレンジ制度って初めて知った。」

そんな感じで、ルール整理に時間がかかったが、大人数のため昨日より盛り上がった。あまりに盛り上がりすぎて、消灯時間をオーバーしてしまい、先生から怒られたところで解散となった。


 最後の夜は名残惜しいのはみんな同じだったみたいで、消灯して布団に入りながら、小声でのおしゃべりを続いた。

「佐藤さん、『さっちん』って呼ばれてるんだね。あだ名かわいいね。」

「最初佐藤さんから始まって、さっちゃん、さっとん、さっちんってなってしまった。あまり『さっちん』って柄ではないけどね。」

スキー教室最後の夜は、寝落ちするまでおしゃべりをつづけて終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る