スキー教室3

 蒼が翌朝起きて窓の外を見てみると、真っ白な世界が広がっていた。雪が珍しい蒼はしばらく見とれていたが、みんなも起きて洗顔など朝の身支度を始めたので、蒼も窓のそばから離れてみんなと一緒に身支度を始めた。

 朝食後、レンタルのスキーウェアに着替え、スキー板をもって集合場所に向かう。初心者、経験者、上級者のスキーの技術ごとにクラス分けされており、スキー初体験の蒼は初心者クラスの集合場所に向かう。

 向かっている途中、佐藤さんも一緒ということに気づき声をかける。

「佐藤さんもスキー初めて?佐藤さん、スキー経験者かと思ってた。同じ部屋の二人も経験者クラスだし。」

 育ちの良さそうな佐藤さんは家庭も裕福そうなので、蒼は当然スキーもしたことがあると思いこんでいた。でも佐藤さんは、

「親は世間体を気にする人で、着る服とかは安物だと恥ずかしいからデパートで買うし、教養は大事だからって塾代とかテキスト代とかはケチらない。でも娯楽にはお金使わないから、スキーはもちろんないし、家族旅行もほとんどしたことがないな。」

といい、色んな家庭の事情があるだなと蒼は思った。


 スキー教室が始まり、インストラクターから最初の簡単なレクチャーを受け、初めてスキーを滑ってみる。ボーゲンとよばれる八の字に板を開いた体勢で、おそるおそる滑りはじめる。滑ることはできたが、止まることはできず転んでしまった。転んでもスピードも出ておらず雪がクッション代わりになって、あまり痛くなかった。インストラクターの人も、

「転んでも大丈夫。転ばないと余計スピードがでて危ないから、むしろ転んでもいいから止まってください。転んだ分だけ上手になります。」

といって励ましてくれた。


 そんな感じで午前中が終わり、昼休憩となり食堂に移動する。初心者クラスが食堂に入ったとき、他のクラスはまだいなかった。クラス毎に切りのいいところで昼休憩となるので、まだ経験者クラスは帰ってきていないみたいだ。

 昼ご飯のカレーライスを佐藤さんと楽しく会話しながら食べ終わった頃、経験者クラスの涼ちゃんが食堂に入ってきた。理恵ちゃんと一緒で二人で仲良く話している。涼ちゃんが蒼に気づき手を振る。蒼も手を振って返す。


 午後からもスキーを習い、少しずつ滑れるようになってきて、楽しくなったころ一日目は終わりとなった。ホテルに戻ると、昼とは違い先に経験者・上級者クラスが終わっており、ロビーに生徒があふれていた。蒼たちもウェアを脱いでスキー板などを置き場において、ホテルに入る。佐藤さんと今日楽しかったねと話しながら部屋に戻ろうとしていると、ロビーにいた理恵ちゃんから声をかけられた。

「蒼ちゃん、ちょっとあっちで話しよう。」

 少しきつい言い方でそう言いながら、理恵ちゃんは蒼の手を引っ張り、あまり人がいない階段のところへと連れて行った。

「蒼ちゃん、さっきの仲良く話していた子って誰?昼ごはんの時も、仲良く話しながら食べていたでしょ?」

理恵ちゃんの声はやっぱり怒っている。

「同室の佐藤さんだよ。5組の子。」

理恵ちゃんの迫力におされながら、蒼が恐る恐る答えるた、

「えっ、そうなの。ということは男子?あんなにキレイなのに。ごめん、蒼ちゃんが女の子と仲良くしているかと思って、怒ってしまった。」

 理恵ちゃんはスキー教室で他の女子と仲良くなったのが、気に入らなかったみたいだ。でも理恵ちゃんも涼ちゃんと仲良くしていたから、理恵ちゃんはあまり束縛しないタイプかと思っていた。そのことを蒼が聞くと、

「あれは涼ちゃんが話しかけてきたから、付き合っているだけ。蒼ちゃんは押し切られやすいタイプだから、本当ははるのことが好きだったのに、私が告白したら付き合うことになったでしょ。そんな感じで、蒼ちゃんが他の子から好かれて奪われるのが怖いから、あんまり他の女子と仲良くしないで。」

 身勝手にも聞こえるが、理恵ちゃんは理恵ちゃんで不安なんだろうと思い、蒼も自分が理恵ちゃんに押し切られたの過去があるので、強くは出られない。

「理恵ちゃん、大丈夫だよ。私を受け入れてくれるのは、理恵ちゃんだけだよ。」

 蒼はこんなとき何を言うべきかわからなかったが、とりあえず理恵ちゃんを安心させようとした。


 そのあと、お風呂に入り冷えた体を温めなおし、夕ご飯となった。今日は、ハンバーグと豚汁定食だった。寒い日に食べる豚汁は、温かいというだけで美味しく感じる。ご飯を食べながら、経験者クラスの様子を涼ちゃんに尋ねる。

「リフトで登って上までいったけど、風が強くて寒かった。眺めはよくてきれいだったけど、寒かくて大変だった。」

 高いところが苦手な蒼は、スキーでリフトに乗ることを忘れており、初心者クラスも最終日には乗るみたいなので、ちょっと怖くなった。


 夕ご飯も食べ終わり、昨日みたいに同じ部屋の4人でおしゃべりをする。今日の話題は、理想の胸のサイズになった。

「やっぱり大きい方がいいかな。」と涼ちゃんが言い、

「大きすぎるとバランスが崩れるので、Cぐらいかな。」と本田さんがいうと、

「私は小さい方がいいかな。AとかBで、胸が小さいのが悩みなのって言っている女の子が好き。」

 昨日に引き続き男子高校生らしい会話に加わってくる、佐藤さん。みため上品なお嬢様なのに、その様子から想像できない台詞が出てくるところが面白い。蒼にも話を振られたので

「本田さんと同じでバランス派かな。」

蒼は答えながら、理恵ちゃんの胸を想像してしまった。


 そんなとき、ドアをノックする音が聞こえた。蒼がドアを開けてみると、理恵ちゃんとはるちゃんが立っていた。

「理恵ちゃん、はるちゃん、どうしたの?」

蒼はさっきまで理恵ちゃんのことを想像していたので、動揺しながら言うと、

「お風呂終わったから、トランプでもしようと思って。」

理恵ちゃんは蒼にトランプを見せながら言った。

 男子が女子部屋のフロアに行くのは禁止だが、女子が男子部屋にくるのは構わないみたいだ。


 理恵ちゃんとはるちゃんは部屋に入ってきた後、本田さんと佐藤さんに自己紹介してトランプが始まった。

 大富豪をやることになり、カードを配り終わったところで理恵ちゃんが、

「大富豪って地方ルール多いけど、どうする。昨日部屋のみんなでやった時に、それぞれの地方でルールが少しずつ違うって気づいた。10付けって何って感じでびっくりした。」

「10付けは私のところでは普通だよ。」とはるちゃんがいい、

「8切りって知ってる?私共通ルールと思っていたのに昨日それみんな知らなくて、8切りなしでやったら、『8』の重要性がなくなって、今までの大富豪と違う感じになっちゃった。」と理恵ちゃんがいうと、

「革命と都落ちは、共通ルールでいいの?」と本田さんがいうと、

「革命は知っているけど、都落ちって何?」と佐藤さんが聞く。

「大富豪の人は次の回で1位以外だと、大貧民に落ちるルール。知らないってことは共通ルールではないんだ。」と本田さんが答えた。

 そのあとそれぞれ今までやっていた大富豪ルールを言って、紙に書いていく「シバリ」「ジョーカーにスペードの『3』は勝てる」「階段革命」などといろんな地方ルールがあった。結局、大富豪になった人が地方ルールを一つ選択できるというルールでトランプを始めた。

 

 トランプは盛り上がって、消灯時間となるまで続いた。理恵ちゃんとははるちゃんが出ていた後、消灯して布団にはいる。

 蒼は、大富豪に地方ルールがあるとは思わずに今まで当然のようにしていた。育った環境が違うと、当然と思っていたことが当然でないことを知った。

 理恵ちゃんが遊びに来たのは、ほかの女子が遊びに来て蒼と仲良くなっていないかを確かめにきてるとおもった。理恵ちゃんは、束縛するタイプではないが、今までのイメージと違って心配性みたいだ。

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