スキー教室2

 5時半のお風呂まではまだ時間があったので、蒼たちは部屋での談笑をまだつづけていた。

「佐藤さん、髪長いけど中学の頃から伸ばしていたの?」

涼ちゃんが聞くと、話すと長いけどと前置きして、佐藤さんは話し始めた。

「もともと子供の時からスカート履きたくて、お姉ちゃんのスカート隠れて履いていたの。それで、小学5年生の頃に母に見つかってしまってその後、家族会議。」

「あっそれうちも同じ。私も見つかってお母さんに泣かれた。」

本田さんがそう言うと、

「うちの場合は理解がありすぎて、男だけどスカート履きたいという希望は通って、すぐに自分用のスカートも買ってくれた。でも、スカート履くならきちんと履きなさいって言われて、その日から女の子らしい仕草を躾けられて、髪も伸ばすように言われた。地元の中学は幸い髪の長さ自由だったから、伸ばし続ける事ができた。」

「どうりで、髪長いんだね。」

涼ちゃんが言った後に、

「すごく動作が女の子らしいというか、普通の女の子以上だよ。私、最初すごくきれいな女子がいるって思ってしまった。」

蒼が褒めると、

「母からスカートが似合うように女の子らしくしなさいって、多分普通の女の子よりも厳しく躾けられたからね。」

そう言って口もとに手を当て上品な感じで笑った。


 5時半になり、お風呂の時間となった。一般客と一緒にならないように貸し切りにしてもらっているので、少し早めのこの時間なったみたいだ。ジャージ姿とはいえ、髪が長く一見女の子にみえる男子が一般客と一緒にお風呂に入ると、混乱が生じるのでいたし方ない。

 大浴場に行くと、もう一部屋の男子部屋の生徒はきていなかった。心は女性なので、男子に裸を見られるのは抵抗があるから、部屋の内風呂に交代で入るだろうと思った。大浴場に4人という贅沢なお風呂となったが、30分後の6時までに着替え終わって出ないといけないので、ゆっくり湯船に浸かっている余裕はない。それでも冷えた体を温めることはできて気持ち良かった。

 脱衣所で着替えを始める。下着をつけるときに、周りはどんな下着を持ってきたかが気になり横目で見てみる。スポブラで過ごすという選択肢もあったが、風呂場で涼ちゃんたちにみられると思うと、かわいいの下着の方がいいかなと思ってお気に入りの下着を持ってきた。みんなかわいい下着をつけている。涼ちゃんは水色、本田さんはピンク、佐藤さんは薄紫を着ている。あんまり凝視するのも悪いかなと思い、横目でこそこそ見ていたが、

「蒼ちゃんのブラジャーかわいい。」

と涼ちゃんが言ってきたので、涼ちゃんと下着見せ合っていると、

「私黄色持っていないけど、黄色もかわいいね。」

本田さんも加わってきた。本田さんとは今まであまり話してこなかったが、裸の付き合いで親近感を深めた結果と思っていたら、

「本田さんのピンクもかわいいよ。」

と佐藤さんも加わってきた。佐藤さんは2組の3人とは初対面で、部屋での印象は上品なお嬢さまだっただけに、参加してくるとは意外だった。結果、みんな下着を見せ合い、お互いの下着を褒めあった。みんなほかの人に見られる事を意識して、それぞれのお気に入りの下着をもってきたみたいだ。

 いつもは平べったい胸にブラジャーをつけると男であることを再認識するので嫌な感じになるが、今日はなんだか楽しかった。


 部屋に戻り髪を乾かすが、みんなが一斉にドライヤーをつかうとホテルのブレーカーが落ちると言われ、ドライヤー持参は禁止で、部屋にある一台を交代で使うように事前に言われていた。そこでみんなで話し合って、じゃんけんで順番を決め5分交代で使おう決めた。じゃんけんの結果、初日は蒼が最初になった。

 蒼はいつものようにドライヤーで髪を乾かせ始めようとすると、佐藤さんからダメ出しをされた。温風を当て続けると髪にダメージがあるから、タオルをあててその上からドライヤーを当てると早く乾くし、ダメージも少ない。また冷風も時々混ぜて、髪の温度が上がりすぎないようにして、なるべく髪の根元に風を当てるなど、いろんなドライヤーのやり方を教えてもらった。

 佐藤さんは、長髪だが手際よく乾かしていた。長くてきれいな髪の毛を維持するのも、陰では気遣いが必要で、蒼はまた一つ女子の苦労を学んだ。


 7時になり夕食となり、夕食会場へと移動する。部屋ごとにテーブルが決まっており、4人でひとつのテーブルを囲むことになった。夕ご飯の唐揚げ定食は冷静に考えれば普通の味だったが、いつも母と二人で食事をしている蒼にとって、旅行先でみんなで食べるというだけで美味しく感じた。ここでも、佐藤さんの箸使いはほれぼれするぐらい美しく、育ちの良さを感じさせた。


 食事後10時の消灯までは再び自由時間となり、女子はこの間に交代でお風呂となる。蒼たちのいる男子部屋と教職員のフロアと女子のフロアは分かれており、女子フロアは男子立ち入り禁止となっているので、部屋に戻ることにした。

 みんなもってきたおやつをテーブルに出して、テレビを見ながら談笑し始める。先ほどの風呂場での下着の話の続きになり、みんな恋愛対象は女子なので、彼女には何色の下着がいいかで盛り上がる。

「やっぱり清楚な水色か白かな。」涼ちゃんが言うと、

「私は黒がセクシーでいい。」と佐藤さんが言う。風呂場でも思ったが、一見上品そうな佐藤さんだが、男子特有のノリにもついてきてそのギャップにとまどう。

そのことを蒼が聞くと、

「最初に言ったとおり、心は男のままだから。」

佐藤さんは先ほどと同じように、口元を隠しながら上品に笑いながら言った。


 10時になり、消灯時間となり布団に入る。布団に入った後も、小声でおしゃべりを続ける。話題は恋愛になり、

「みんな好きな人いるの?」涼ちゃんが話題をふると、

「好きな人っていうか、付き合えたらいいなと思う人はいるけど、スカート履いた男子を好きな女子とかいないから無理ってあきらめてる。」

本田さんが言うと、涼ちゃんが

「姉が言っていたけど、意外とハクジョ男子と付き合いたいって女子いるらしいよ。女性の苦労がわかっているから、いいんだって。」

「私も女子から告白されたことあるよ。」

佐藤さんの発言にみんな驚く。佐藤さんは男前な美人だから女子が惚れるのもわかるよなと思いながら、蒼はどうしたのと聞くと、

「いろいろあって返事は保留して、友達として付き合ってる感じかな。一緒に帰ったり、買い物行ったりしてる。」

 

 蒼は、理恵ちゃん以外にもハクジョ男子と付き合いたい女子っているんだなあと、思いながら眠りについた。


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