期末テスト後のお楽しみ

 3日間にわたる期末テストが終わった金曜日、午前中でテストを終え、蒼はいつもより早い時間に帰宅をした。帰宅すると、暑いのとプリーツスカートにしわがつくのを防ぐため制服はすぐに脱いで、ルームウェアとして着ているワンピースに着替える。制服と違ってワンピースは、風通しがよく涼しいので気に入っている。男のままでは、知らなかった事だ。

 去年までは部屋着といえばTシャツにジャージあるいはスエットだったが、最近は部屋着もスカートで、寝るときのナイトウェアも女の子用のかわいいものを使っている。かわいいものを身に着けていると、それだけで嬉しくなってくる。

 春休みには、母からスカートに慣れるためにと強制的にスカートを履かされていたが、今では逆にスカートやレディースの服を着ていないと落ち着かなくなってしまった。

 一時期は悩んだが、今では女の子になりたいし、なるなら可愛くなりたいと思うようになってきた。


 テストの疲れもあり、蒼がカルピスを飲みながらリビングでくつろいでいると、理恵ちゃんから、日曜日は部活休みなのでテストの打ち上げも兼ねて、勉強グループのみんなで遊びに行こうとお誘いのラインが届いた。

 グループラインには、すでに涼ちゃんとはるちゃんの参加の返事がされてあり、蒼もすぐに参加の返事をする。みんなの返事を待っていたかのように、理恵ちゃんから10時に駅に集合して、そこから歩いていける距離にある、カラオケやボーリングなどがある複合型アミューズメント施設に行って遊ぼうと提案の返信があり、蒼もすぐにOKの返信をする。

 学校外でみんなと会うのは初めてで楽しみで待ち遠しくなる。とくにはるちゃんに会えるのが嬉しい。


 日曜日、蒼は朝起きて手短に朝食をとった後、外出の準備を始める。

 洗顔後丁寧に髭を剃り、化粧水と乳液でスキンケアした後、4月に買ってもらったプリーツワンピースに着替え、髪をセットする。姿見で全体の出来を確認した後に、リビングに向かい、台所で朝食の洗い物していた母に、

「お母さん、お願い、メイクして」とお願いしてみる。

 4月に化粧品を買ってもらってから、休みの日に何回か自分でもメイクしてみたが、母がやってくれたようにはいかない。今日ははるちゃんにかわいいところを見せたいので、絶対に失敗したくない。そこで、母にお願いすることにした。

 メイクをしながら、母は

「今日は何かあるの?」と聞いてきた。

「友だちと遊びに行くだけだよ。夕ご飯までには帰るから。」と答えると、

「楽しんでおいで。最後にリップ塗るから、口閉じて。」と言いリップを塗り始めた。


「こんな感じでいいかな。」とメイクを終えた母がいい、

鏡をみてみると自分がしたメイクとは段違いのメイクをされた自分が映っていた。

 その後、玄関に行き靴を履いて、玄関に見送りにきた母に

「お母さん、どうかな?変じゃない?」と聞く。

「かわいいよ。その靴どうしたの?」

と母は蒼の履くバレエシューズを指さした。

「いつもの靴だと、このワンピースに合わない気がして、昨日買ってきた。」

いつものスニーカーでも合わないことはなかったが、かわいさに欠けると思い、昨日あわててショッピングモールに行って、靴を購入してきた。


 待ち合わせの駅に向かう車内、蒼は手鏡をとりだし気になっていた前髪を見た。前髪と一緒に目元も映る。4月にメイクしてもらった時にはなかった、ラメが派手ではない程度にほんのり塗られているのがわかる。母も今日の蒼の思いを感じ取って、よりかわいく仕上げてくれたみたいだ。

 手を伸ばして手鏡に顔全部が映るようにしてみてみる。朝、母は「かわいい」と言ってくれたが、自分でもかわいい女の子の部類には入っていないことぐらいわかる。漫画などでは男がスカート履いて、ウィッグかぶれば美少女という設定をよくみるが、現実は甘くなくメイク、服装、女の子らしい仕草などいろいろ総動員して、ようやく女子の仲間に入れてもらえるぐらいだ。

 とうてい男らしいとは言えない今の格好、かといって女の子ではない自分。いったい自分は何者だと考えてしまう。


 駅に着くと、すでに3人は到着していた。

「待たせてごめん。」と蒼は3人の元へと急ぐ。

「今ちょうど10時だから、私たちが早くついただけだし、蒼ちゃんが一番遠いから、仕方ないよ。」と水色のトップスと、白のキュロットスカートを合わせた理恵ちゃんが言ってくれた。

はるちゃんは、白のトップスに、ベージュのニットベストを合わせ、ボトムはミントグリーンのスラックスパンツをはいている。

涼ちゃんは、紺色のトップスに白のシフォンスカートを合わせている。それにメイクもしているようで、いつもよりも女のらしくなっている。


「蒼ちゃんの服かわいい、それにメイクもしてる。かわいい。あ、その靴もかわいいね。」とはるちゃんがかわいいを連呼してくれた。

 はるちゃんに「かわいい」と言われると、お世辞や社交辞令だったとしても、朝母に言われた「かわいい」とは違ううれしさがある。

「涼ちゃんのメイクもかわいいよ。自分でしたの?」と蒼が尋ねる。

「いや、姉が服のコーデからメイクまで全部してくれた。」と照れながら、涼ちゃんがいった。


 先週から期末テストが終わるまで学校では長時間一緒に過ごしていたが、いつもと違う私服姿で会うと、制服の時とはちがうそれぞれの個性がみえ、テンションがたかまってきた。

 今日は楽しい一日になりそうだ。

 


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