期末テスト

 7月上旬の土曜日、蒼は期末テストの勉強をするために学校に向かっていた。梅雨明け前とはいえ、雨が降っていないと気温、湿度も高いのでかなり不快な暑さになっている。

 そんな暑さの中、下着としてブラジャーにキャミソールを着て、その上からブラウスを着て、透け防止のためにニットベストを着て、リボンまでつけていると更に暑く感じる。

 去年までは下着の上に夏用の開襟シャツだったので、その違いに驚くとともに女子の苦労がわかる。入学説明会の資料にあった、男子が1年間女子高生になるのはジェンダー教育にも役に立つというのは、こんな女子の苦労を知るということも含まれているだなと思った。

 女子も夏は開襟シャツを着てリボンもネクタイもつけなく良くなるが、一部の「リボン派」と呼ばれる女子は強制されたわけでもないのに、夏場でも開襟シャツを着ずリボンを付けてくる。彼女たちに言わせると、リボンこそ制服の本体、リボンのない制服はありえない、とのことなので、年中リボンを付けてくる。おしゃれにかける女子の熱意に圧倒されるが、蒼もリボンを付けるようになって少しその気持ちもわかってきた。


 駅から学校までの十分の道のりが、こんな日は辛く感じる。なんとか学校にたどり着き、日傘を閉じる。去年までは女子が使っているのを見て、日傘なんて意味あるのかなと思っていたが、日焼け防止のために使ってみると意外と直射日光を浴びないだけで歩くのが楽になる。教室は冷暖房完備なので、学校に来てしまえばある程度快適だ。

 蒼が日焼け防止のために着けていたアームカバーを外しながら教室に入った時、同じようにテスト勉強に来ていたクラスの女子生徒が、下敷きを仰いでスカートの下に風を送っていた。蒼もやってみたかったが、はしたない感じがしてやったことがない。

 水分補給の時にペットボトルから飲むときも、男の時は何も考えず飲み口全体を唇で覆う感じで飲んでいたが、女の子になってほかの女子を見てみると、唇の半分のみペットボトルに触れ、飲み口を下唇に乗せるように飲んでいたので、それをマネしながら飲んでいる。

 何気ない所作の一つ一つが男のころと違い、女子としてのふるまいは、トランプタワーのように繊細に積みあがっており、一つでも男時代のようなガサツな行動をしてしまうと全てが壊れてしまう。男の自分がでてこないように、常に女の子の自分を意識し続けている。


 理恵ちゃんが下敷きをうちわ代わりにしてあおぎながら教室に入ってきて、4人揃ったところでテスト勉強を開始する。理恵ちゃんはスカートに開襟シャツだが、はるちゃんはスラックスにリボンだ。はるちゃんはスラックスに開襟シャツを合わせると、男子っぽく見えるのが嫌なので開襟シャツは着ないらしい。

 テスト本番は水曜日からなので、まだ少し余裕があるせいか勉強しながらも、時折雑談が混じる。

「三角関数、嫌い。将来何の役に立つの?」

数学に苦戦している理恵ちゃんが言うと、

「高校レベルの数学もわからない人は大学の勉強についていけないって、姉ちゃんが言っていた。大学の勉強って、高校と比べ物にならないぐらい難しいらしい。」

医大生の姉をもつ涼ちゃんそういうと、大学に行くのが怖くなる。今でも苦戦しているのに、さらに難しくなるのかと思うとげんなりする。

「私も古文も意味わからないから嫌い。」

古文を苦手とする蒼が愚痴ると、

「古文はまずは主語探し。敬語などから省略されて主語を推理していって、主語がわかれば意味が分かるようになるよ。」

理系でも古文を苦手としていないはるちゃんからアドバイスをもらう。

 こんな感じでお互いの得意で助け合って勉強していると、一方的な授業よりも理解が進む。この勉強グループのシステムのおかげで、苦手な古文も含めてなんとか赤点とらずに済んでいるので、ほかの3人には感謝している。


 ちょっと休憩ということで、お菓子をつまみながらほかの勉強グループに迷惑にならないように声のボリューム控えめで雑談する。

「女子の制服って暑いね。女の子って大変だね。暑いけど、透け防止にベストも着ないといけないし。」

蒼が愚痴ると、

「夏場は、キャミソールブラにすると少し涼しいよ。っていうか、蒼ちゃんも透けるの気にするんだ。男子なのに。」

理恵ちゃんが笑いながら、女子らしく夏の乗り越える方法を教えてくれた。男女で下着の話をするとは思わなかったが、多分理恵ちゃんは蒼や涼ちゃんのようなハクジョ男子を男として見ていないようだ。はるちゃんも同じように、ハクジョ男子を男として見ていないか気になる。

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