中間テスト2

 中間テストを月曜日に控えた土曜日、いつもなら学校は休みだが、蒼たちの勉強グループは学校に集まってテスト勉強することなっていた。

 蒼は朝食を手短にすませて、着替え始める。今日は気温が高いので、ブレザーは着らずに、シャツの上からスクールベストを着てリボンを付ける。クローゼットの姿見でみると、ブレザーの時とは違うかわいさがある。


 駅前の交差点の信号待ちの時に「ひょっとして、森田君?」と声をかけられた。

振り向くと中学3年の時同じクラスだった森若由紀子がいた。

 白石高校の以外の知り合いに初めてスカートの姿を見られたこと、しかもそれがよりによって中学時代片思いだった森若さんだったことに動揺して、

「森若さん、ひさしぶりだね。」と答えるのが精いっぱいだった。

逃げだしたい気持ちでいっぱいだったが、森若さんは

「白石高校って噂で聞いてたけど、本当に男子でもスカートの制服なんだね。」

と話しかけてきたので話を続けざるを得ない。

「2年生の男子はスカートなんだ。」と答えると、

「中学の時は気づかなくてごめんね。女の子になりたいってわかってたら、応援したのに。でもようやく着たい制服着れるようになってよかったね。」

と、森若さんは完全に蒼のことをトランスジェンダーと勘違いしているような発言をした。その誤解を解くには駅までの距離は短く、彼女の高校は蒼の高校とは逆方向なので駅の改札で別れた。


 電車の中で英単語を覚えようと思っていたが、森若さんに誤解されたショックで動揺して頭に入らないまま、学校の最寄り駅に到着した。

 こんな落ち込んだ気分の時は甘いものでも食べて気分を変えよう、そう思って蒼は駅前のスーパーに入ることにした。おいしそうな新発売のチョコレートが目に入り、それを一つとってレジに並ぶ。数人が会計後、蒼の順番がきて交通系ICで清算しようとすると、残高不足のエラー音が鳴った。

「すみません。現金でお願いします。」といつもなら声ばれするのを防ぐために小声で話すが、焦ったこともありいつもより大きな声になってしまい、後ろに並んでいた地元高校の女子高生にも聞こえてしまった。

 現金で支払ってお釣りを受け取る間、その女子高生が一緒に並んでいた友達との会話が耳に入る。

「あれって、ハクジョ男子だよね。」

「スカート履いてまでハクジョに通いたいのかな?絶対恥ずかしいよね。」

「胸のふくらみってひょっとして下着まで女物なの?気持ち悪い~。」

蒼はお釣りを受け取ると、逃げるように店外に出た。

 

 朝からショックなことが続いたが、落ち込んでばかりではテストは乗り切れないので学校に到着した後は、気分を切り替えて勉強を始めた。

 12時になり昼食を4人で食べながら、蒼は朝の出来事を話す。みんなからは気にすることないよと励ましを受けたところで、

「涼ちゃんはそんなことないの?」と蒼は聞いてみた。

「あるかもれないけど、気にしてないから覚えてない。」

と涼ちゃんは明るい女子高生のような回答をくれた。今日も蒼が男であることをバレたと思って、後ろの女子高生の会話を聞き取ろうとしたから、聞こえてしまっただけで、何も気にせずやり過ごせば良かった。


 「ところで、涼ちゃんと蒼は私服もスカートなの?」

とハクジョ男子と初めて交流をもった理恵ちゃんが質問してくる。

「春休みからずっとスカートだよ。休みの日もスカート。自分のもあるし、母から借りることもあるよ。涼ちゃんは?」

「私もずっとスカートだよ。着せ替え人形みたいに、姉が休みのたびに服を選んで持ってきて、それを着てる。」

「みんな私と逆だね。」とはるちゃんが笑いながら言った。


 それからまた勉強に取り掛かり、午後3時過ぎに理恵ちゃんが

「ちょっと小腹がすいた~。休憩しよう。」

と休憩したいといい出したので、おやつ休憩をとることになった。

おやつを食べながら、理恵ちゃんが

「蒼って好きな人いるの?」と女子トークの口火を切った。

昨日の一件ではるちゃんを意識していることもあり、蒼が返事を躊躇していると、

「あ、その反応はいるね。っていうか、蒼の場合、恋愛対象は男子になるの?それとも女子のまま?」

「さすがに女子のままかな。」とひとしきり女子トークをして再び勉強に戻った。


 午後5時すぎにテスト範囲は一通り終了して、あとは暗記物と演習問題の繰り返しは各自自宅でということになり、解散となった。昨日と同様、はるちゃんと一緒に駅まで歩いて帰る。その道中、はるちゃんが

「蒼(あおい)、これだとなんか呼び捨てっぽいから蒼(あお)ちゃんでいいかな?今日の朝は大変だったね。」と朝の件をもう一度慰めてくれた。

「涼ちゃんみたいに気にしないようにするよ。」と蒼が答えると、

「スカートって女性の特権なのかな?この高校にいるからかもしれないけど、私は男子のスカートってあんまり抵抗ないけど。スカートをはける権利が譲れるなら、蒼ちゃんに譲りたいな。スカート履いている蒼ちゃん、好きだよ。」

「ありがとう。少し気が楽になったよ。」と蒼は礼をいって駅の改札で別れた。


 また帰りの車内、蒼の頭の中で昨日と同様にはるちゃんの「スカート履いている蒼ちゃん、好きだよ。」の言葉がリフレインしている。

 最初にスカートを履いた日、自分でも似合っていないのはわかっていた。それからスカートの位置を調節して、姿勢も整え、髪型も変えて、褒められたことはうれしかった。しかもはるちゃんから。

 朝のいやな気分が消え、むしろいい気分で帰宅した蒼であった。



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