中間テスト

 二者面談の翌日の昼休み、蒼は母の持たせてくれた弁当を涼ちゃんと西野さんの3人でいつものように食べていた。

「昨日の面談って何だったの?」と西野さんが聞いてくる、

「スカートには慣れたかと、今の学校生活について聞かれた。制服がスカートになって楽しい女子高生生活を送っていますって答えたら、先生も安心したみたいで、あとは雑談。好きな子いるの?とか勉強頑張ってる?とか。蒼はどうだった?」と涼ちゃんが答える。

「同じような感じだったよ。」と蒼は答えながら、涼ちゃんは「女子高生」を演じている自分がわかっているみたいだから、先生はあえて何もいわなかったんだなと思った。


 昼休み終了10分前の予鈴が鳴ったところで、涼ちゃんと一緒にポーチをもってトイレに向かう。トイレをすませて、洗面台でポーチを取り出す。女子のポーチには絶対入っていないであろう電気シェーバーを取り出し髭を剃り、さらに念を入れてコンシーラーを塗る。

 朝丁寧に髭を剃っても夕方過ぎには少し髭が伸びてきて、あまり動かず他人から観察されやすい電車やバスの車内では男だとばれるのを防ぐために帰りはマスクをしていたが、本田さんに教えてもらったこの方法でマスクが不要になり快適だ。

ハクジョの2年生はスカートというのはこの地域の人はみんな知っているみたいだが、男だとばれると変な興味の視線でみられることが多いので、ばれないことに越したことはない。


 先に髭の処理をおえた涼ちゃんが、

「蒼、今日テスト勉強で残る?」と聞いてくる

「うん、残るよ。あと1週間しかないしね。あと西野さんが1組の東野さんって子をつれてくるって。」と蒼が応える。


 白石高校では、女子高だったハクジョの時代から、テスト前は数名でグループをつくってそれぞれの得意科目を苦手な人に教えあう習慣がある。進学塾の少ない地方都市にある学校が、都市部にある学校に対抗するためにできた習慣らしい。

 苦手な人も先生よりも気軽に質問できる同級生に教えてもらえるし、また教えることで教えた側も理解が深まるというWin-Winの関係だそうで、始まったのがいつなのか分からないぐらい続いている。


 1年の時は当時は涼介だった涼ちゃんともう一人の3人でやっていたが、その一人が文系クラスにいったので、理系クラスで新しく勉強グループを作る必要があった。西野さんも同じように一緒に勉強していた子が文系クラスに行ったので、4人でグループを作ることにした。部活動が停止となるテスト1週間前の今日からグループで勉強することになっていた。


 放課後2組の教室に東野さんが入ってきた。ポニーテールが似合うかわいい感じの子だ。制服はネクタイとスラックスの組み合わせで、今日の西野さんと同じだ。

「初めまして、1組の東野理恵です。西野さんとは同じバレー部です。」と挨拶されたので、蒼と涼ちゃんもそれぞれ挨拶する。

「私1年の時も男子がいないクラスだったので、ハクジョ男子と話すの初めて。一緒に勉強できるようになれて嬉しい。」

 蒼の学年には8人しか男子がおらず、2年だとこの2組に3人、隣の3組に3人、そして文系クラスの5組に2人なので、男子と一緒のクラスの方が少ないので、東野さんみたいに男子と絡んだことがない女子も多いだろう。

「ハクジョ男子」初めて聞く単語に蒼は疑問を持ったが、すぐにこの高校の男子生徒のことで、さらにいえばスカートの制服を着ている男子のことだろうと推測がついた。白石高校と名前をかえてもまだそんな風に地元では呼ばれていることに、ハクジョのブランド力を感じる。


 教室内では別のグループが勉強をすでに始めており、蒼たちのグループも4人そろったところで机を合わせて勉強を始める。

蒼は苦手の英語について、得意と言っていた東野さんに質問する。

「東野さん、この英作文だけど答えこれで合ってるかな?」

蒼の書いた英作文をみながら、

「理恵でいいよ。東野って4文字もあって長いからから、みんな理恵って呼んでいるからそっちのほうが慣れてるの。この英作文だけど、仮定法だから、主節の時制がちがうよ。」

数学の問題を解いていた西野さんが、

「森田さんも今度から下の名前でいい?私はバレー部だとはるってよばれているから「はる」って呼んで。で蒼、この問題どうやって解くの?」

「じゃ、はるちゃん。この問題は、対数の真数は正だから・・・」

と4人グループ内では下の名前で呼び合うことになり急に親密さが増した。


 完全下校時間である19時に4人そろって学校をでる。バス通学の涼ちゃんと理恵ちゃんは校門前のバス停でお別れして、電車通学の蒼とはるちゃんの二人で駅に向かう。もちろん校門前のバス停からも駅に向けてバスはでているが、歩いて10分もかからないので、雨が降っていない限りバスを待つより歩きで帰る生徒の方が多い。


 二人並んで駅に向かっている道中、はるちゃんが話しかけてきた。

「私たちって逆だよね。男子なのにスカートの蒼と、女子なのにスラックスの私。」

「はるちゃんはずっとスラックスだよね。」と前からの疑問を蒼は口にする。

「別に男になりたいトランスジェンダーとかじゃなくて、単にスカートがあまりすきじゃないだけ。中学もスラックスとスカートの選択制だったから、ずっとスラックス。スカートここ5年以上履いてないな。蒼の方が私よりもスカート履いてるね。ところでこうやって二人で並んで歩いて、下の名前で呼び合っていると付き合っているみたいだね。」

とはるちゃんが笑いながら言った。

「付き合っているみたい」その言葉に蒼は驚いたけど、多分冗談だろうと自分に言い聞かせて深追いせずに流すことにした。


 電車では逆方向のはるちゃんとは改札で分かれ、帰りの電車に乗る。家に着くまで間ずっとはるちゃんことを考えていた。

「付き合っているみたい」は冗談だろうけど、冗談でも口にする以上蒼のことは好意的に思ってくれているんだろう。冗談だったとしても、そんな風に思ってくれていたことがわかってうれしい。

でも言葉通りだと、蒼の方が女子になっちゃうけど・・・




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