第2話・コンニチワ刑事さん、私が身元引受人よ

 高校の時に文芸部に所属していたが、その時に部員のようで部員でない1つ年上の先輩というのが部室に顔を出していた。ある時は空手部員で、ある時は写真部、あとは山岳部にもいたような気もする。・・・とにかく自由に部活を横断し、謳歌していた方がいた。


 その方がある日突然、「文を書く」というので作品を持ってきていただいたところ、架空の次回予告だけを突然作り出して、部を騒然とさせた。1文単位で支離滅裂な文を繋げて作品のようで全く関係性の無いでっち上げの1000文字程度の次回予告があった。今は覚えていないが「知らない人の家に上がり込み、高級そうな酒を勝手に飲んで大トラになった父、英彦。明日スポーツカーのボンネットにくくりつけられたまま死刑判決を聞くことができるのか!?」みたいな、脳汁が溢れた怪文書の羅列だ。

 そのまま最終的には「次回、『ティファニーで朝食を』お楽しみください」と好き勝手に他人の作品と繋げて終了したような気がする。細かい所は間違っていても、大体はそんなノリだ。

 それが箸が転んでもおかしいと感じる年頃にぶつけられた。

 意味不明な文章を書くのが伝播して部内でブームになった。作者もテンションが上って部室にあったホワイトボードに、車にくくりつけられた中年の絵を書いていたような気がする。


 今でこそ、電気グルーヴのオールナイトニッポンのような造語のムーブメントだったと分かった。更には20年前に少しだけ流行ったテレビ覧のコラージュと一緒に出てきた気がする。「笑っていいとも タモリンピックに犬乱入!? 消化器いくつ飲めるかギネスに挑戦 志村けん他」みたいな。そういうのも、部活の金で勝手に文芸誌を刷っては図書館の端に置いて、多感な学生に対して不用意に刺激していたと記憶している。


 当時の自分を思い出しても、単語帳にシュールな訳の大喜利を書いて成績の低い、物知らずな同級生に暗記させようと撹乱して謀反を起こされたりと、高校生なのに比較的いろいろとユルユルなことはやっていたような気がする。


 そういう最中、部員は3年にもなると、真面目に勉強して大学受験に向けていた。こちらは各担任に25点の期末テストと土下座の6点で、31点と赤点を阻止し進級できた身分として、ずいぶんと学力の差で離されてしまっていたような気がする。クラスで最下位から3位だったが、1位は家業を継ぐのが確定していた奴、2位は大学から推薦入学が確定していた奴、そして3位がおれだった。


 しっかり留年し、進学を志して今に至るのだけれど、あの時は一体なんだったんだろうと夢というか、谷のような思春期を送っていた。同年代の人と知り合い、思い出話をする時になっても、大体聞いている方は共感が全く出来ないため、心にしまっている話となっている。


 そもそも在籍していた2年間で文芸誌を約50冊、5000ページで最低でも300万字レベルの執筆スパンで、部活のメンバーで書いていたのに、どの賞レースにも出ていないという「狂ってるな」としか感想が出てこない時代だった。半年で部費を紙代だけで使い果たして部員で予算を募って、A4のコピー用紙、1箱500枚5包を1ヶ月に2箱とか買っていたとかを言っても「あるある~」だ、なんて言ってもらえない。


 青春は鬱屈としていて、誰とも会話が出来ないというようなヒガミをよく聞くけれど「よく分からない方向へフルスロットル」というものだと、誰に話しても苦笑いで返されるというのも辛いというのが分かった。


 若い人よ。とりあえずでいい、セックスとビルの隙間での野糞はしておけ。

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