第3話

「ほら、似合ってるぅ!!」


ナガレの声がからりと響いた。数多ある服に吸音され、妙な周波数がアパレルショップの宙を舞う。


美しく彩られた夢架に歓喜したわけではなく、自分の見立てが正しいことを確かめられた喜びがホルモンとなり、ナガレの痩躯を駆け巡った。


「……そ、そうで……しょうか? ちょっと……ワタシには合わないような……」


理由はわからないが、うどん屋からの移動中、夢架はほとんど口を聞かなかった。よどみなく話すナガレの隣で、「ああ」や「はい」といった相槌だけをうっていた。静かさに反比例して、顔が汗ばんでいったのは、もしかすると、どこか体調が悪かったのかもしれない。

オレの見込みが正しければ、あるいは……。


しかし。


ここにきて。


とうとう、自分の意見を発した。彼女の魂のステージが上がったのだ。

新しい服を着て、心が浄化され始めたということだろう。

次の展開が予想できてきた。


「いいかい? 合う。間違いない。白はすべての色をマヒさせる。おもに悪い色をね」


「悪い……色? で、でも……もともと白い服だったんですが……」


シルクのドレスには聖なる力が宿る。ナガレはスラックスの後ろポケットに忍ばせているシルクのハンカチをそっと触った。


「あんなのは白じゃない。蛍光増白剤だ。白はシルク。それしかありえないんだよ。邪悪と戦うにはね」


諭すように穏やかに言い、片目を閉じた。絹のワンピースを着た夢架を見て、美しいとも思ったが、どうにも彼女の輪郭がぼやけたように映る。


夢架の身体が震えている。そのせいだ。やはり……。


「ねえ、夢架さん」


ナガレが試着室に一歩にじりよると、夢架は目を見開き、肩を躍らせた。


「……は、はいっ」


声も揺らいでいる。音程も安定しない。ブレスもやたらと荒い。


なるほど……。

ナガレはここで確信した。

思ったより高級なヤツだ。人の精神、肉体を支配できるレベル。


「こっちも着てみようか」


君はマネキン。オレの秘術のすべてを着せてやるさ。


悪魔よ。いつまで耐えれるかな?


逃げるという選択肢は、もうない。


「デッドオアアライブ」


ナガレは夢架を指さした。


「え?」


「でっど。おあ。あらいぶ。生きるか死ぬか」


「そ、それは……わかります」


試着室の壁に背中を押し付けるよう、夢架は体を引いた。


「感じたことはないだろう?」


ナガレはシルクのハンカチをぎゅっと握り、一歩踏みよった。

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