【短編】終焉の地、大魔術師はアダムとなる

竹輪剛志

ほんへ

「終焉の地、大魔術師はアダムとなる」

                           Yunibasu                                    

 

 誰もが予想してなかったある日、そいつはやってきた。曇天の空がパッと鮮やかに光り、辺り一面を照らし、燃やした。

 新たなる、人工の太陽。

 大地は焦げ、人は影も残らない。有形の絶望。それを確かに私は、この目で見たのである。私は思った。あれこそが、世界の終わらせる魔術なのだろうと。 

                         

 あの魔術からはや一週間が経過した。戦争の爆心地であったここ都市グレイアスは今も酷い有様だった。まともな建造物はなく、一番マシなのが今いるこの家である。

 現状はギリギリだ。なんとか蓄えてあった食料で今日まで耐えてきたが、それも尽きた。

「そろそろ外のマナも落ち着いてきた頃合いだろうし・・・」   

 大魔術の被弾場所に起こるマナの暴走。暴走したマナが魔術師の体内に多量吸収されると、体内で魔力が大暴れして術者を内側から破ってしまう。

 それを防ぐため、この一週間。魔術で結界を張っていた。

「解くか」

 部屋の中央に鎮座している魔道具に手を伸ばす。

「レべラル」

 解除の呪文を唱えると、家を囲っていた正方形のガラスの様な魔造物体が砕ける。

「さてと」

 着慣れたローブを着て、杖を握る。

「第一目標はて、食料だな・・・」

 そうして、大魔術師セロの廃地探索が始まるのであった。


 

 絶望の瞬間に考えたのは、自分の身をどう守るかであった。

 幸運だったのは、たまたま外を眺めていたこと。寝起きで、朝日を浴びようとしていたのだ。

 そして、閃光。

 まずは自分の命を守り、次はこの家を守る。

 家さえ保護できれば、家の中にある防衛用結界を起動できる。

 そうして体内の魔力を最大解放し、一時的な結界を張る。その後、走って地下室へ向かった。一時的結界の持続時間中に防衛用結界展開装置を起動する。

「ふぅ・・・」 

 なんとか、助かった。安堵し、地上に上がる。

「なんてことだ」 

 一時結界を張るまでの瞬間に崩落した壁から外が見える。

 そこには、一瞬にして廃墟となった都市。そこには人がいない。

 何故人がいないのか・・・ 想像は容易かった。

 そのあまりに非情な現実に、心が壊れそうになった。 

 救えた命があったのではないか、そんな疑念が自分にのしかかる。

 そしてそのうち、考えるのを止めるのであった。



 空気はまずい。どんよりとしていて、居心地は最悪だ。

「食料なんて、あったもんじゃねぇな」

 この荒廃した街に食料なんてないだろう。

 ならば、街が見つかるまで歩こう。そう思い、コップに入って魔術で創造した水を飲み、新たに歩みを進めた。

 

 なんてことだ、街も食料も見つからない。

 あの魔術はいったいどれだけの範囲を破壊しつくしたのだろうか・・?

 まずい、このままでは本当に死んでしまう。

 そう思いつつも、歩みは止めない。止まることは、死を意味する。


 あれから、何日が経ったのだろうか?

 もう体が限界だ、心も限界だ。何も、何も見つからない。

 そこに希望は無く、あるのはただ無限に続く絶望。何度も、ループしたように同じような光景を見続けた。

 世界は終わってしまったのか? そんな疑問が脳裏よ過る。

 もう、自分以外に生物はいないのだろうか?

 そう思った瞬間、途端に体が倒れた。

 外なる絶望を、内なる希望で弾きつづけたのも限界だ。 

 もう体の内側にも絶望しかない。


 倒れ、ふと地面を見る。

 土の上に、若くみずみずしい若葉が生えている。なんと奇跡的な事なのだろうか?

 そして、それを見た瞬間、脳裏に電撃的な衝撃が走った。

 

 水、成長、時間操作、加速、細胞分裂・・・・

 

 今まで、考えたこともなかった。いや、考えてはいたが理想論とされていた空想の魔術が、現実の形となって脳にあらわれる。

 脅威の発想、天才的な魔術構文。

 大気の存在するマナを総動員する。

 そして、思い付いた魔術をそのままの形に。

 

 「リメイ・ノヴァ」


 そして呪文を唱える。

 すると、さっきまで若葉だった植物が急成長して木となった。

 その姿は、この荒野となる前の世界では当たり前だった物。

 しかし、この世界では何度あることを望んでも、無かった物。

 そして、一つの物体が落ちてきた。   リンゴだ。

 無心で、ただひたすらにかじりつく。

 美味い、ただ、美味い。ただのリンゴがすごく美味しい。

 涙がでてきた。苦労はこのためにあったのかと。

 

 三つのリンゴを食べ終え、木にもたれかかり今まで通った道を眺める。

 本当に何も無い。

 あるのは、家であった物と土、そしてこの木と自分だけだ。


 それで十分ではないか。

 この木を育てる過程、爆発的な発想をし、それを形とした。

 その知識がある。

 

 時間操作。


 この木から、知識を得た。そして、魔術を完成させた。

 やってやろうじゃないか。俺が、世界を救ってやる。

 大気には大量のマナがある。魔術は完成した。

 

「さて、やりますか」


 自身を中心に、電気的なマナの奔流が起こる。

 魔術の構築は終了した。   

 あとは発動するだけ。だが、その前に大気中のマナ、全世界のマナを体に集める。内側から爆発しそうなほどのマナ。数分ももたないだろう・・・ 

 だが、それで良い。

 さあ、発動の時だ。

 

「レディト・ノヴァ」

 

 光が世界を包み、世界は変わる。

 時空は歪み、歴史は逆行する。

 膨大な変化の中、確かな自分をあり続ける。


 魔術は成功した。ここは、俺が目覚めた部屋だ。

 急いで外に出る。そして、魔術を構築する。

 火には、水だ。大量のマナを、潤沢に使用して最高峰の水魔術を構築する。

 大量の魔法陣が、現れる。通行人はなんだなんだと、自分を眺めている。

 

 その時が来た。

 

 空が光る。それに合わせ、魔術を解放する。

 

「ぺクサ・アクア」

 

 杖の先端から、大量の水が放出される。水は天の太陽にぶつかる。

 蒸発と、炎の消滅が戦う。決着は一瞬だ。

 数秒後に降った雨が、その勝敗を伝える。

 

 人々が何があったと驚くなか、大魔術師セロはもっていたリンゴをかじりながら、誇らしげに家に帰って行くのであった。

  

   

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