第5話 ストーカーの正体

私たちは近所の公園に移動する。

イケメン彼氏も私たちに気づいていたかも知れないが、中学生の男女がふざけて遊んでいるようにしか見えなかっただろう。


『で、一体何なのよ、影薄丸。』


綾乃さんの危機を彼氏さんに伝え損なって、私はイライラしている。


「とりあえず…追いついて良かった…」


「板垣くん、私ので良ければ、お茶飲んで。」


紗英は相変わらず優しい。

自分の水筒からコップ一杯のお茶を汲むと、影薄丸に差し出す。

すごい勢いで飲み干した影薄丸は、やっと呼吸が落ち着いてきたのか、ゆっくり話しだす。


「そもそも、2人とも、さっきの男の人って誰なの?」


『そりゃアンタ、綾乃さんの彼氏に決まってるじゃない。前に一緒にいたところ見たんだから。』


付き合ってもないのに、家まで送りに来るなんて考えづらい。それに男性の爽やかな笑顔は、間違いなく綾乃さんと親密な証拠だ。


「それがそもそも間違いなんだよ。彼氏って、綾乃さんから直接聞いたの?」


「直接は聞いてないけど…付き合ってそうな雰囲気だったよ?板垣くん。」


「じゃあ仮に付き合ってたとして、どれくらいの仲だったと思うのさ?ラブラブなのか、冷めきっているのか。」


そう言われると、なんだか違和感がある。

初めてイケメン彼氏と綾乃さんを見た時、彼氏は笑っていたが、綾乃さんは終始表情が曇っていた。もしかしたら上手くいっていなかったのかも知れない。


私たちが黙ってしまうのを見て、影薄丸は続ける。


「俺が思うに、さっきの男の人、かなり怪しいよね。綾乃さんは帰宅前にいつも周囲を確認してたんだろ?誰かが家まで来ているのを警戒してたんだと思うよ。」


「え…それって板垣くん。綾乃さんがストーカー被害を受けている犯人って、あのイケメン彼氏って事?」


「断定は出来ないけどね。でももし本当にそうなら、あの彼氏にストーカーの話をしたらどう思う?きっと余計につきまといがエスカレートするぜ?」


確かにその通りだ。

現段階で何もかも憶測に過ぎない。

でもだからこそ、イケメン彼氏がストーカーと言う仮説も否定出来ない。

そんな中で、ストーカー本人に綾乃さんの状況を教えるのは危険すぎる。


『確かに、アンタの言う事にも一理あるわね。でもじゃあ、私たちは一体どうしたらいいのよ?』


「それは、今日あった事を、そのまま綾乃さんに伝えたら良いんじゃないかな?家の前で男性が待ってましたよって。」


影薄丸はいちいち真っ当な事を言ってくる。

それなら、綾乃さんへも迷惑にならないし、第一話が早い。


私たちは日を改めて、今日の出来事を綾乃さんに伝える事にした。

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