第63話 真実
「葵。まずは朱莉ちゃんの腕を放すんだ」
「どうして優雅にそんなことを言われる筋合いがあるの?」
「どうしてって嫌がっているじゃないか」
「嫌がっていないよね? 朱莉」
朱莉は反応を示さなかった。
震えているようにも見えたし、嫌がっていないようにも見える。
「まぁ、いいわ。あなたは先に家に帰っていなさい。私は少し優雅と話があるから」
コクッと頷いて朱莉はそそくさと自分の家に戻っていく。
そして、玄関の前で俺と葵は二人になる。
「こうして二人で喋るのは久しぶりだね。私から解放されてどうだった? 嬉しかった? 寂しかった?」
「……両方だ」
「へぇ。そう。私はずっと寂しかったよ。私が私でない感じがしてずっと孤独だった」
「朱莉ちゃんから色々聞いたよ。その間、お前が何をしていたか」
「ふーん。何を聞いたって?」
「お前、何をしようとしているんだ。裏で精密な計画を立てて犯罪みたいなことを企んでいるんじゃないのか? お前の部屋にあった怪しい道具を使ってどうしようとしていたんだ」
「あぁ、あれを見たんだね。朱莉のやつ、後で締め上げないとね」
「そんなことをしたら俺が許さないぞ」
「冗談だよ。可愛い妹にそんな酷いことするはずないじゃない」
葵は笑顔を向けた。だが、それは作り笑いであることは容易に分かった。
「それで何をしようとしていたんだ」
「別に何も」
「そんなわけないだろ。ロープやナイフ。ブルーシート。これを使って人を襲おうとしていたんじゃないのか?」
「それは勘違いだよ。ほら、もうすぐ文化祭でしょ? だからそれに使う道具だよ。やだなぁ、早とちりしちゃって」
「じゃ、じゃああれは何だ。人間ノートって」
「あぁ、それも見たんだ。あれはただのストレス発散だよ。優雅の身の回りの管理も込めて」
「俺の人間関係を操っていたのは認めるんだな?」
「そうだね。優雅に寄り付く悪い虫の管理はさせてもらったよ。でもそれは私を選ぶための前段階。本気の恋を実らせるための手段に過ぎない」
「そこまでして俺を手に入れたいのか」
「当然だよ。そのためなら何でもした。優雅の周りは私が操作していたんだよ。ずっと。あの時もあれもそうだね」
「あれって?」
「優雅って何かとモテるんだよね。だから当然、好意を持つ女の子が絶えない。だからその度に私は寄り付かないように操作した。優雅の悪口や告白をぶち壊したり、何かと忙しいんだよ。変だなって思ったでしょ。どうして自分には友達ができないんだろうって。それは全部私が作らせないようにしていたから」
「どうしてそこまでするんだ」
「どうしてって優雅に対する私の思いが膨大だからだよ。でも、私も鬼じゃないよ。優雅にも美味しい思いをさせたんだから感謝して欲しいかな」
「美味しい思い?」
「最近、友達が増えたんじゃない? ピンク髪の子」
「桜木さんのことか?」
「あの人、私が派遣した子だよ。優雅に友達になってくれると思って私から細やかなプレゼント。でも友達以上にならないようにしているから変な期待はしないこと」
「派遣って桜木さんはお前の差し金ってことか」
「そういうこと。自然と友達になれたと思ったのに私が手を引いていたって思うと残念だったね」
「そんなこと有り得るのか?」
「信じられない? じゃ、それより前に遡ってみましょうか。私は優雅の行動は全てお見通し。何でも知っていると言い切れる。バイト先を紹介してくれたのは誰だったかな?」
「誰ってそれは……!」
「気付いたようね」
「朝比奈さんもお前と繋がっているってことか?」
「そういうこと。最初は違ったけど、途中から私の思い通りに動いてもらっていたんだ。知らなかったでしょ」
「途中からってどこからだよ」
「一ヶ月の勝負を持ちかけられたでしょ。あれ、私の提案なんだ」
「マジか。そんなことをして葵にメリットはあるのかよ。もしそれで朝比奈さんを好きになったらどうしていたつもりだよ」
「好きになったらなったらで振らせるつもりだったよ。だってそういう契約だから」
「契約?」
「私の指示で動いたってことはそれに沿った契約はあるよ。契約を成立させるためには苦労したけど、何とか成立した」
「どうやってそんな話に乗ったんだよ」
「そこ知りたい? 簡単な話だよ。私が調べたクラスの情報を提供すること。私の情報網があれば朝比奈可憐はより有利に立てる。そのために私に手を貸してくれたの」
「変だと思ったよ。道理で積極的に俺を誘惑すると思った」
「でも、私と契約したことで大事なものを失ったのは事実」
「大事なもの?」
「私が唯一思い通りになれなかった人物がいる。それが夜桜十六夜の存在だった」
ーーーーーー
完結まで残り
数話予定
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