第59話 採用


「うん。採用」


 バイトの面接はその場で採用を言い渡された。

 余りにも簡単に通ってしまったので俺は拍子抜けをした。


「あの、いいんですか?」


 信じられなかった俺は店長に聞き返す。


「うん。だって朝比奈さんの知り合いでしょ。相談を持ちかけられた時から採用しようと思っていたから。それに今、うち人手不足だから」


「あ、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


「よろしく。明日から入れるかな?」


「勿論です」


「助かるよ。最初の一ヶ月はマイナス五十円からになるけど、期間が終われば通常の時給に戻すから安心して。仕事の内容は一緒のシフトの人から聞いて覚えていってね。まぁ、そんな難しいことはないから徐々に覚えてくれたらいいから」


「はい。分かりました」


「ところで高嶺くん」


「はい」


「その、朝比奈さんとはどういう関係?」


「友だちですけど」


「あぁ、そうなんだ。あーはいはい。じゃ、明日からよろしく。今日はもう帰っていいよ」


「はい。失礼します」


 制服を受け取って面接は終了した。

 とりあえずバイト先が見つかって安心した。



 その帰りに俺は電話を掛ける。


『もしもし。ゆうくん?』


「あぁ、十六夜。急にごめん」


『いいよ。どうしたの?』


「バイト先、決まったよ」


『そうなんだ。おめでとう』


「ありがとう。それで学校以外ではなかなか会えなくなると思うんだけど……」


『あぁ、私のことは気にしないで。学校で会えるだけでも充分。お金が溜まったらデートいっぱいしようね』


「うん。そのためにもいっぱい頑張るよ」


『しばらくは金曜日の恒例行事も延期だね。残念』


「バイト代入ったら何か奢ってやるよ」


『嬉しい事言ってくれるね。じゃ、焼肉に連れて行ってよ』


「よ、よし。任せろ」


『ところでゆうくんは何のバイトを始めるの?』


「漫画喫茶」


『ふーん。そういうところって高校生でも働けるんだ』


「二十二時以降は働けないけど、普通に働けるよ」


『そうなんだ。まぁ、漫画好きのゆうくんにはピッタリの仕事だね。サボって立ち読みするなよ』


「し、しねーよ」


『働いているところ見に行きたいところだけど、会員制で未成年は入れないんだっけ?』「うん。よく知っているね」


『前、入ろうとしたら門前払いされたから』


「あーなるほど」


『ところで可憐もそこで働いているってこと?』


「働いているけど、朝比奈さんは週一で入っている程度で俺とはシフトの時間は被らないようにしているから心配するようなことは何一つないですよ」


『必死に否定したね』


「これも十六夜を心配させないためだよ」


『まぁ、私は信じているから心配はしていないよ』


「そう、なら良かった」


『困ったり、相談があればすぐに言ってね。一緒に解決しよう』


「分かった。ありがとう。十六夜。大好きだよ」


『電話で言うのは反則! わ、私も好きだから』


 十六夜に報告を終えた俺は初めてのアルバイトに決意を固める。

 十六夜に焼肉を奢るためにも頑張らないといけない。

 バイトは土日の日中のフルタイム。平日は学校終わりの数時間をシフトとして組んでいるので週四から週五は働くこととなる。

 いきなり入れすぎなスケジュールだが、これも金のためだと思い、俺はバイトに臨んだ。


 そして初出勤の日である。


「あら。あなたが今日から入った新人さん?」


 ピンク髪ショートの派手な頭をした可愛い系の女の子に声を掛けられる。

 身体は葵と同じでお子様体型で中学生に見えた。


「えっと、高嶺優雅です。高校生です」


「よろしく。私は桜木桔梗さくらぎききょう。大学生だよ。今日は私が先輩として指導するからしっかり覚えてね」


「は、はい。よろしくお願いします」


 歳下のように見えたが、その逆で歳上。しかも大学生。

 ここで俺は大事なことを思い出す。

 そう、俺はラブコメ主人公のような素質を持っている。この出会いは何かの予感を感じていた。新たなヒロインの登場だと錯覚する。

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