第56話 助け舟
「最近、葵の様子はどう?」
「どう? とは」
曖昧な質問に対して曖昧な質問返しをされる。
確かにそうなるよな。
「いや、何と言うか。特に変わった様子とかないかなって」
「別に変わった様子はないと思いますよ。葵お姉ちゃん、いつもと変わらず元気だし」
「そ、そっか」
「あ、でも時々浮かない顔をしている時があるよ」
「そう、そういうのが聞きたかった。俺について何か言ってなかった?」
「言ってはなかったけど、写真に何か落書きをしている姿を見たことあるよ」
「写真?」
「確かクラス写真だったかな? 誰かの顔を塗りつぶしていた」
「それ、誰の顔?」
「さぁ。塗りつぶしてあるから分からない。でも女の子だったよ」
あいつ、俺の周りの女の子を恨んでいるのか。
そういうストレス発散方法は後々怖い。
「ねぇ。優雅お兄ちゃん。ぶっちゃけ葵姉ちゃんと仲悪い?」
「え? 何で?」
「だっていつも朝は一緒に学校に行っていたじゃないですか。でも、最近葵姉ちゃん一人で行くことが増えたし何かあったのかなって」
あったと言えばあった。いや、色々あり過ぎた。
だが、朱莉の様子を見て葵は家族には言っていないらしい。
それはそれで有り難いのだが、何も言わないのも不気味だ。
「そう言えば、優雅お兄ちゃん。女の子、ここによく連れ込んでいますよね?」
「へ?」
「見たことありますよ。友だちですか? それとも彼女?」
「友だちというか彼女になったというか」
何を言っているんだと思いつつ、俺は口を滑らせてしまう。
「気にしないで下さい。別に追求したり、誰かに喋ったりしないので。葵お姉ちゃんも葵お姉ちゃんです。何かあると優雅、優雅って。滅茶苦茶優雅お兄ちゃんラブですよね」
「あ、あぁ。そうだな」
「ぶっちゃけ葵お姉ちゃんをどう思いますか? 鬱陶しい? 好き?」
朱莉は急にグイグイ来る。
「俺にとって有り難い存在とだけは言えるかな」と、俺は困りながらも質問に答える。
「その言い方だと別に好きではなさそうですね。分かりますよ。わがままで負けず嫌いで私たち妹も手を焚く姉だと思います。普通、姉なら妹に配慮しますよね? ケーキとか人数分なかったら妹に譲るところだと思いますが、葵姉ちゃんの場合は率先して奪います。いつも私か美都里が泣く思いをするんです」
「酷い姉もいたものだな。まぁ、それが葵らしいのかもしれないけど」
「優雅お兄ちゃんは彼女が居るんですよね?」
「え? あぁ、そうだな」
「ならその彼女は何としても別れさせようとしますね。葵姉ちゃんならやりかねない」
「それは覚悟している。でも今のところ何かされた訳でもないから様子を見ているのかなって思うけど」
「何かしらの準備を進めているかもしれませんね」
「それが何なのかってことだよな」
「一つ、助け舟を出しましょうか?」
「助け舟?」
「私が葵姉ちゃんのスパイになってあげてもいいですよ。事前に情報が入れば優雅お兄ちゃんも動きやすいですねよ?」
「た、確かに最もだが、いいのか?」
「勿論、私にもリスクがありますのでタダとは言えません。条件次第ですよ」
「条件? 言ってみろ」
「手堅くお金にしません? それならお互い割り切れる関係性になれると思いますから」
「金か。少し痛いけど、仕方がないな。いくらだ?」
「実は欲しいものがあって五万円必要なんですよ」
「五万? 流石にそれはちょっと……」
高校生の俺からすれば少しどころか、かなりの痛手だ。中学生にしてはかなりの高額を要求する。詐欺もいいところだ。
「でも、安全に今の彼女と付き合えるって考えるとかなり安いと思いますよ? 葵姉ちゃんのことです。何をしてくるか分からない。それは優雅お兄ちゃんが一番よく分かっているんじゃないですか?」
「ぐっ! 確かに」
そう、葵は俺が好き過ぎるあまりこれまでにも女の子を近づけさせないよう色んな手を使ってきた。やっとの思いで掴んだ彼女の存在を知った今、葵の次なる手は予想ができない。きっと今も少しずつ何かの準備をしているに違いない。
そう考えると事前に情報を知るのと知らないのでは対策する手として大きく変わる。
それを提供してくれると朱莉は言ってくれるので願ってもいない情報源と言えるだろう。
「三万!」
「ダメ」
「じゃ、四万!」
「値切り交渉ですか? 言いたくなる気持ちも分かりますけど、妥協した金額分の働きはしませんよ?」
「ぐっ! 分かった。耳を揃えて五万円用意しよう。だが、今手持ちがない。少し待ってくれるか?」
「いいですよ。どれくらい待てばいいですか?」
「一週間。いや、三日」
「分かりました。三日待ちます。金額を受け取り次第、同盟設立です」
「ありがとう」
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