第55話 マジックショー
「タラリララーン。タララララーン!」
朱莉は上機嫌なメロディーを口で言いながらトランプをシャッフルした。
「ショットガンシャッフルじゃないんだ」
「ショットガンシャッフルはカードを痛めるぜ」
「朱莉ちゃん。そのネタ知っているの?」
俺のその質問に朱莉は答えなかった。
例のカードゲームのネタなんだが、知っている人なら知っている。
トランプに触ってから急にノリノリの気分で俺は一安心する。
「さて。この中から一枚カードを選んで私に見せないように覚えて下さい」
「分かった」
束の中からカードを一枚抜き取る。
『ハートの七』
「覚えましたか?」
「うん」
「じゃ、そのカードに何か印を付けて下さい」
「印?」
「落書きや傷を付けるの」
「えーそれじゃ、次に使えなくなるよ」
「じゃ鉛筆で書いて。それなら後から消せるでしょ?」
「まぁ、それなら」
俺は表面に『ゆうが』と自分の名前を書いた。
「書けたらそのカードを好きなところに戻して下さい」
「ここで」
再びカードは束に戻されてシャッフルされる。
果たしてこれから何が始まるのだろうか。
マジックはテレビに見たことあるが、こうして目の前で見ることはなかったので正直、ワクワクする自分がいた。
「はい。今、束の中で優雅お兄ちゃんが選んだカードは時空の彼方へ消えました」
「は? どういうこと?」
「今は私では取り出せないから別のマジックで時間を潰すね」
「う、うん?」
朱莉は紙コップと五百円玉を取り出して次のマジックの準備を進める。
「使う紙コップは全部で三つ。タネも仕掛けもないか確認してみて」
「分かった。うん。特に問題はなさそうだ」
俺は確認した紙コップを返す。
「じゃ、紙コップを逆さまにします」
逆にした紙コップが三つ。
そして五百円玉を一つの紙コップの上に乗せる。手で隠した状態で三つをシャッフル。
底を隠した状態で朱莉は言う。
「五百円玉が載っている紙コップはどれでしょう?」
「その真ん中のやつだろ? ずっと見ていたから間違いない」
「本当にそうかな?」
パッと朱莉は手を離すと紙コップの底の上に乗っていた五百円玉がない。
「バカな!」
紙コップの中身を確認すると中に五百円玉が入っていた。
「え? 何で中に入っているの? すり抜けた?」
「おや、おや。時空の彼方へ消えたカードが戻ってきたよ」
「え?」
俺は残り二つの紙コップを拾い上げた。すると、内一つに俺が選んだ『ハートの七』が入っていたのだ。
それにちゃんと俺のサインが入っていた。
「イリュージョン!」
「え? 朱莉ちゃん。どうやったの? 全然分からなかった」
「種明かしはしません。マジックの秘密だぞ」
「それにしてもすごいよ。葵は一言もそんなことを言わなかったのに。朱莉ちゃんは普段から披露しているの?」
「誰かに見せたのは優雅お兄ちゃんが初めてだよ」
「え? なんで?」
「私はタダでは見せない」
そう言って朱莉ちゃんはマジックに使わなかった千円札をヒラヒラさせながら言った。
「ちょ、それ!」
「貰っていい?」
「ど、どうぞ……」
心苦しかったが、嫌とは言えなかった。
「ありがとう。その代わり、貰った報酬分はキッチリと働かせてもらうよ」
「今のが千円分の価値ってこと?」
「それじゃ高いでしょ。情報提供してあげようか?」
「情報提供?」
「あるんじゃないんですか? 葵姉ちゃんの妹である私に聞きたいことの一つや二つ」
ある。と言うより、朱莉ちゃんのキャラってこんなんだっけ?
マジックで変なスイッチが入ったのか。
こういう人を試すような態度は葵とそっくりだがこれはある意味チャンスかもしれない。
この際、葵のことについて聞き出せることがあるなら聞き出してやる。
そう、俺は身構えた。
「じゃ、最初の質問……」
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