第53話 衝突


 退院後、俺は三日間学校を休んだ。

 別に体調が悪いわけではなかったのだが、精神的に辛かったため、理由を作って休んだ。

 結局、スマホは見つからなかったので買い換えることになり、登録先はゼロ。


「流石に今日は学校に行くか」


 朝の日差しを浴びた俺は気分転換の意味を込めて学校に向かった。

 正直、行きたくない。今頃、俺に対する様々な噂が広まっていることだろう。

 校門の前に立つとこの先に行きたくないと俺の身体は悲鳴を上げている。

 それでも行かなくちゃならない。それが学生の務めでもあるからだ。


「フゥー。よし! 大丈夫。行くぞ」


 俺は一歩を踏み出した。

 すれ違う生徒は俺を変な目で見る。当然のことだ。

 俺は遭難して生還を果たした。それと同時に俺はとんでもない過ちを犯した。

 そう、十六夜と付き合っている中で朝比奈さんと一緒にいたことだ。

 それは避けられない事実。

 正直。まだ教室に入る勇気がなかった俺は校舎の裏側で様子を窺うことにした。


 そんな時だ。


 ガンッ! という何かを叩きつける音が耳に響いた。


「可憐! あんた、どういうつもりか答えなさい」


 朝比奈さんと十六夜の姿がそこにあった。

 見たところ、完全に朝比奈さんが攻められている様子だ。


「どうもこうもないわよ」


「あんたねぇ! 自分が何をしたか分かっているの?」


 十六夜は朝比奈さんを壁に叩きつけた。

 怖い。これ、俺が出ていったらまずいやつなのでは?


「彼女である十六夜に許可を取らずに高嶺くんを誘った件については悪いとは思っている」


「だったら……」


「でも、ノコノコ来た高嶺くんにも問題があるんじゃない?」


「そ、それは……」


 いや、事実は朝比奈さんが断れない状況を作ったからであろう。

 それを俺が悪いみたいな言い方したら十六夜にさらなる誤解を生むのでは?

 どうしよう。まだ、様子を見るか?


「ハッキリ言えばいいじゃない。彼氏だったら言えるでしょ? それとも聞くのが怖い?」


「高嶺くん。私のことが好きらしいよ」


「う、嘘よ! 優雅は私が好きなんだもん」


「でも私、高嶺くんとキスしちゃった」


 その時だ。十六夜は朝比奈さんに平手打ちをした。

 パチンッという音が鮮明に響いた。


「この泥棒猫!」


「痛いわね。それで気が済んだ?」


「な訳ないでしょ。あんたとは絶交よ。二度と優雅に近づかないで」


「言われなくてもそうするよ。あの男のどこがいいんだか」


 冷静を装いつつも朝比奈さんは痛みを耐えながらその場を去る。

 二人の関係が崩れた瞬間である。そう、俺のせいで。

 だが、俺としてはこれで終わらせる訳にはいかない。


「十六夜!」


「優雅……。見ていたの?」


「ごめん」


 その瞬間、十六夜は涙を浮かべて俺に抱きついた。


「バカ! 心配したんだからね」


「ごめん」


「ねぇ、優雅の好きな人は誰なの?」


「勿論、十六夜だよ。心配かけてごめん。もう二度と辛い思いはさせないから」


「うん。信じる」


「聞かないのか? 朝比奈さんとのこと?」


「もういい。私のことが好きだって知れたらそれ以上望まないよ」


「そっか。絶交した瞬間に言うのも申し訳ないけど、一つだけ俺の望みを聞いてくれないかな?」


「何?」


「十六夜。朝比奈さんとこれからも友だちで居てほしい」


「なんでそんなことを言うの? 可憐は優雅を惑わせる存在なんだよ」


「勿論、俺は朝比奈さんとの関係を断つつもりだ。でも、十六夜とは友だちで居てほしい。それが俺の望みかな」


「今の場面を見てよくそこまで言えるね」


「それは悪いと思っている」


「条件次第かな。優雅にちょっかいを出さない。それが出来るなら友だちを続けてもいい」


「それは少し時間が掛かるかもな」


「それはそうでしょ。じゃ、謝ってくるね」


 十六夜は朝比奈さんの元へ向かっていく。

 少し問題は残るが、悪い方向に進まなくてよかった。

 そして、この先に起こる問題もまた存在する。

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