第46話 ハイキングへGO


 朝の七時。五分前。駅前にて俺は朝比奈さんを待っていた。


「ヤッホー。高嶺くん。約束通り来たんだね」


 待ち合わせ時間丁度に朝比奈さんは現れた。

 デートということでお洒落をしてくるかと思えば、長袖に長ズボンとお洒落とは無縁の服装である。


「リュックの中身は指定したものを持って来てくれた?」


「あぁ、タオルや着替え。水筒や非常食などまるで山に登る品数だな」


「私の格好を見て実感したでしょ。今日はハイキングに行きます」


「何でまたそんな疲れることを」


「部屋に引きこもってゲームをするのもいいけど、たまには軽く運動しないと身体に毒だよ。私はちゃんと高嶺くんのことを考えているんだから」


「軽くってガッツリ運動をさせられそうなんですけど」


「とにかく出発しよう! 日帰りをしようとしたら朝の行動が重要なんだぞ?」


「分かったよ。行こう」


 朝比奈さんと会うまで憂鬱な気分だったが、こうして電車に乗ったことで少しワクワクした気分が芽生えた。

 朝比奈さんの笑顔も癒されるけど、こういう休日を過ごすことは新鮮だった。

 まだデートは始まったばかり。この先どうなるのか不安は残るのだが、無事に終わることを願うしかない。


「このデートで朝比奈さんは俺を好きにさせるつもり?」


「この日では無理だよ。私の計画では七十パーセントを目標にしている」


「かなり高いね。ちなみに今の段階で三十パーセントくらいだよ」


「三割は私のこと好きなんだ」


「友だちとしての好きだ。恋愛ではそれ以下って話」


「ゼロではないなら可能性はあるね。私のテクニックを思い知るといいよ」


「普通、そういうことって事前に言うのはどうかと思うよ。そんなことを言われたらこっちは身構えちゃうと思うけど」


「それでいいよ。構えてくれないと受け止めきれないでしょ」


「その自信は一体どこからくるわけ?」


「私はいつでも自信たっぷりだよ。それより今日はなんて言って来たの? 親とか十六夜とか」


「親には普通に遊びに行くって。十六夜は……言っていない」


「言わなくていいの? 今日何をしているか気にならない?」


「十六夜は多分、親に連れられて釣りにでも行っていると思う。何かと日曜日は忙しそうだし、俺から何か言うと迷惑かと思って鑑賞しないようにしている」


「なるほど。案外スッキリした関係だね。もし十六夜が今日のことを知ったらどう思うかな?」


「脅すつもり?」


「安心してよ。今日のことは誰にも言うつもりないよ。十六夜には特に」


「それなら助かる」


「こっちはこっちで楽しもうよ。せっかくのデートなんだし」


「まぁ、ほぼ強制デートだけどな」


「それは忘れて。楽しめるものも楽しめないじゃない」


「……それもそうか」


 電車に揺られて数時間。

 降りた先の駅は無人駅となっており、周辺には緑が広がっていた。


「何もない」


「ハイキングなんてそんなものでしょ。でも安心して。私有地だからキャンプとか川遊びが出来るところだから」


「へ、へぇ。そう」


 小屋のようなところに管理人がいるようでそこに目的と金額を支払う形になっていた。

 それらは全て朝比奈さんが済ませてくれて俺は人任せのようになってしまう。


「さて。受付も済ませたところだし、頂上まで行こうか」


「う、うん」


「どうした?」


「いや、急にだるくなってきちゃって。気持ち的に」


「これだからインドア派は……。安心して。ここは私有地って言ったでしょ。過酷な道とかないし、ちゃんと舗装されているから歩きやすいと思うよ」


「まぁ、ここまで来てそんなことも言っていられないか。行こう。朝比奈さん」


「うん。手を繋ぐ?」


「いや、遠慮しておく」


「気分悪くなったらすぐ言ってね。薬や水分は多めに持ってきているから」


「準備いいね」


「それは勿論、デートのリードをする立場としてはあらゆる想定をしてきたからね」


 現在時刻は十時前。

 ハイキングコースに俺と朝比奈さんは進むことになる。



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