第45話 捜索


 その日、俺は家に帰ると早々に自分の部屋に向かった。


「確か、画像の向きからカメラの位置はこの辺だったと思うけど……」


 そう、朝比奈さんが仕掛けたと思われるカメラの存在を知った俺は捜索していた。

 知らないところで俺のプライバシーが筒抜けになっていると思うと気が気ではなかった。

 一刻も早くカメラを見つめなければならない。


「ん? 俺、こんなゲームソフト持っていたかな?」


 本棚に並べられていたゲームソフトの中に見覚えのないケースがあり、それを手に取る。

 中身を開くとそこには隠しカメラが仕掛けられていた。

 背表紙の辺りに小さな穴を開けてそこからカメラがこちらを覗く構成になっていた。

 これじゃ、分からない。

 見つけたカメラは処分しよう。朝比奈さんに返すとまたどこに仕掛けられるか分かったものではない。


「他にもどこかに仕掛けられているかもしれないな」


 そう思った俺は部屋中の物を捜索した。

 漫画を全部開いたり、ベッドの下や机の周辺、コンセントのプラグの中身を開いたり念入りの捜索が始まった。

 気付けば五時間ほどの捜索の末、力尽きた。

 見つけたカメラは総合で三つ。盗聴器が二つ。それぞれ俺の部屋から出てきた。


「まさか。ここまでやるとは。だが、もうないだろう。いや、俺の部屋だけだとは限らない。家のどこかに仕掛けられたらまだまだ時間が掛かりそうだ」


 朝比奈さんが最後に俺の部屋に来たのは十六夜と一緒に泊まりに来た時だ。

 そう考えればその日からずっと俺の行動は見られていたと言う訳だ。

 警察に通報すれば間違いなく朝比奈さんは逮捕案件になると思うが、俺はそこまで気が進まなかった。

 どこかで友だちとしての意識が強いことがためらいを与えていた。

 俺がそれに悲しむのは勿論だが、周りの影響を考えると踏み止まってしまう。

 そんな時だ。俺のスマホに着信が入った。


『ハロー。高嶺くん』


「……朝比奈さん」


『私が仕掛けたカメラを回収したようだね。映像が途絶えちゃったから』


「他にもどこかに仕掛けているの?」


『高嶺くんが探し出したもので全部だよ。それは誓って言えるから安心して』


「随分、手が込んでいるね。全然気づかなかったよ」


『ありがとう。私、スパイの才能があるかな?』


「別に褒めていないよ。ここまでして俺が警察に通報したらどうしていたの?」


『それはしないと思うよ。例え高嶺くんが通報していたとしても私はタダでは転ばない。何かしらの置き土産で高嶺くんは苦しめられることになる』


「一つだけ確認させてくれ。俺は朝比奈さんとは友だちで居られるかどうか」


『それは高嶺くん次第だと思うよ。私としてこれからもずっと友だちで居るつもり』


「なるほど。それを聞いて安心したよ」


『あら、意外。てっきり本気で嫌われたと思っちゃった』


「俺にとって友だちとして残されたのは朝比奈さんだけだ。その繋がりは壊したくない。だから一つ約束してほしい」


『言ってみて』


「この一ヶ月の勝負が終わった直後、俺が勝てば理想の友だちになってほしい」


『それは演技でも構わないってこと?』


「あぁ。ただ、人間関係を壊すような真似をしなければ演技でも構わない」


『そう。分かった。本来であれば通報案件だし。この条件なら私はまだ戦える』


「俺は絶対に朝比奈さんを好きにならない。俺が好きなのは十六夜だけだ」


『今は……ね。私にもまだ勝ち目はあることだけは忘れないで。じゃ、デートの詳細を伝えるね。次の日曜日、朝の七時に〇〇駅に集合だよ。服装は常識のある範囲内で動きやすい服装が理想。着ていく服は事前に私に写真で送ること。いい?』


「朝七時? 随分、早くない?」


『まぁ、移動に時間が掛かるかもしれないからそれくらいが理想かな』


「どこにいくつもり?」


『それは内緒。当日までのお楽しみに』


「分かった。後で写真を送るよ」


『よろしくね。きっと良い一日になるからさ』


 どこに行くのか。結局、当日まで分からない状況の中、俺は不安に刈られた。

 朝比奈さんとのゲームが終了するまで残り二十四日。

 好きになるかならないか。二人の中でこっそりと始めたゲームは大きな展開を見せようとしていた。


「俺は朝比奈さんを好きにはならない」と、俺は拳を握り、決意を固めた。


 そして、日曜日の朝。事前に送った服装を身に包み、俺は待ち合わせ場所に向けて玄関を飛び出した。

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