第44話 弱み
「おはよう。高嶺くん」
登校した早々、シューズ入れにて朝比奈さんが声をかけてきた。
「……おはよう」
「何でそんなに気構えているの?」
「いや、だって……」
略奪を宣言されて正常な対応をするのが難しかった。
そろそろ何か仕掛けてくるだろうと予想はしていたが、今がその時なのだろうか。
余計な色仕掛けをされる前に離れた方が賢明だと判断した俺はよそよそしく対応を図る。
「それじゃ」
「待って!」
ですよね。そう簡単に避けられるわけないだろう。
「な、なに?」
「十六夜とは順調かな?」
「まぁ、それなりに」
「この間、部屋に連れ込んでいやらしいことでもしたんじゃない?」
「何でそれを? まさか十六夜から聞いたのか?」
「十六夜からは何も聞いていないよ。多分、本人もそんなこと他人に言えないんじゃないかな?」
「じゃ、どうしてそれを?」
「それだけじゃないよ。最近、色気付こうと鏡の前で無駄毛を抜いていたでしょ」
「なっ!」
それは俺だけしか知らないこと。朝比奈さんが知るはずもない。
「高嶺くんのことは何でも分かるよ」
「どういうカラクリだよ」
「知りたい?」
「当然だ」
「じゃ、一日私に付き合ってくれるかな?」
「何をするつもりだ」
「別に。普通のデートだよ。勿論、十六夜には内緒でね」
「それはちょっと……」
「断るなら断るでいいよ。まぁ、断れるのであれば」
「どういう意味だ?」
「しょうがない。高嶺くんにとっておきのものを見せてあげよう」
「……とっておき?」
すると、朝比奈さんはスマホを開き、ある画像を見せた。
それは俺と十六夜が部屋で愛し合っている姿が映し出された。
「それって!」
「断ればこの画像はどこかで一人歩きするかもしれないとだけ言っておくね」
「どうしてその写真を……? まさか!」
「ふふ。この間、高嶺くんの家にお邪魔した時にカメラを仕掛けさせてもらいました」
「プライバシーの侵害だ。じゃ、今までずっとカメラで俺の姿を見ていたってこと?」
「そういうことになるね。好きな人の実態を知りたい本能ってやつ?」
「朝比奈さんって実はストーカーだったの?」
「高嶺くんが私に目覚めさせたんだよ。私はやるなら徹底的にやる。安心して一ヶ月のゲームが終了した時点でそういう関連のことは一切しないから。それがルールだからね」
「そこまでやるか」
「それでそうする? デートする? それとも断る?」
「どのみち俺の選択権はないんだろ。分かったよ。デートをする」
「ありがとう。そう言ってくれると思ったよ。じゃ、次の日曜日空けといて。詳細はまたメッセージで送るからよろしく!」
上機嫌な笑顔で朝比奈さんは去っていく。
断りきれずに承諾してしまったが、十六夜になんて言おうか。
いや、そもそも言えるはずがない。
この件は墓場まで持って行こう。そう決意した。
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