第41話 夜桜家訪問


 十九時。


「えっと……ここだよな?」


 俺は十六夜に教えられた住所の前に来たわけだが、少し困惑していた。

 マンションや戸建ての家を想像していたのだが、着いた先はそれらの想像と少し違っていたからだ。

 そう、俺は神社に来てしまったらしい。


「十六夜。住所の送り先間違えたのかな? 仕方がない。電話してみるか」


 ワンコールで十六夜は電話に出た。


『あ、ゆうくん。着いた?』


「着いたけど、住所間違っているぞ。なんか神社に着いちゃったんだけど」


『あぁ、着いたんだ。待っていて。今、行くから』


 電話は切られてしまう。

 この近くの家なのだろうか。どこから来るつもりだ?

 すると十六夜は神社の正面から姿を見せる。


「ヤッホー。ちゃんと来たんだね」


「十六夜。お前、どこから来たんだよ。それよりも家、どこ?」


「ここだけど」


「ここ? 何を言っているんだ」


「何って私の家、神社だよ?」


「は、はい?」


「驚いた?」


「それはまぁ、意外と言うか」


「奥にある家がそうだよ。さぁ、家族が待っているから行こうよ」


 神社の奥に進むとそこには年季が入った歴史ある家があった。


「築二百年以上だから超オンボロだけどゆっくりしていってよ」


「あ、あぁ。色々凄いな」


 十六夜は神社の娘だった。

 そんなことある? と思うほど驚かされた。


「おや、いらっしゃい」


「ど、どうも。高嶺優雅と言います。この度はお招き頂き、誠にありがとうございます」


「硬い挨拶はいいから座る!」


 十六夜に無理やり大広間にある座布団に座らせられる。


「じゃ、私から軽く家族を紹介するよ。ひいおばあちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、お父さん、三人の兄貴で上から拓海にぃ、和樹にぃ、和也にぃ。そしてお父さんのお兄さんの賢治おじさんだよ」


「はは。大家族だね……」


「君が十六夜の彼氏ってことかい?」


 ひいおばあちゃんは俺をジロリと睨む。


「は、はい。一応」


「一応?」


 次の瞬間、ひいおばあちゃんは俺に向けて竹の棒を突き付けた。

 ギリギリ当たらない距離に俺は膠着した。


「生半可な覚悟でひ孫と付き合うなら容赦しないよ?」


「いえ、俺は……。いや、僕は真剣に十六夜さんと突き合わせてもらっています」


「その覚悟は本当だろうね?」


「はい」


「よろしい」とひいおばあちゃんは竹の棒を引っ込めた。


「もう、ひいおばあちゃん。いきなり失礼でしょ?」


「ふん。十六夜にふさわしい男か試す義理がある」


「だから私のことはほっといてよ」


 すると、十六夜の三人の兄貴の一人、拓海さんはそっと俺に耳打ちをした。


「あのババァ、今年で百歳なんだぜ? 元気だろ?」


「へ? あれで百歳?」


「聞こえとるぞ。拓海! それにわしゃまだピチピチの九十九歳じゃい! 適当なことを抜かすな」


「はは。どっちも一緒だろ」


「九十九と百では全然違うわ!」


 このひいおばあちゃん……出来る。

 俺は小さく身構えた。


「さぁ、さぁ、せっかくのご飯が冷めちゃいますよ。さぁ、皆食べて、食べて」


おばあちゃんとお母さんのコンビがゾロゾロと料理を運ぶ。煮物や寿司など長テーぶりに続々と並べられた。まさにご馳走だ。


「さぁ、今日は珍しく一同が揃ったんだ。パァーッと飲み食いしてくれ」


 おじいちゃんの号令により食事会が始まった。


「はい。ゆうくんのよそってあげる」


「あ、ありがとう。それよりも家族が揃ったってどう言うこと?」


「ん? あぁ、この神社はおじいちゃんとお父さんで切り盛りしているの。だけど三人の兄貴は地方で就職して今日はたまたま全員が揃ったってこと」


「そうなんだ。あれ? じゃ、跡取りは?」


「今のところお父さんの代で終わりかなって」


「え?」


「さて。お前たち三人の男どもには話がある。神社を継ぐのじゃ!」


 と、ひいおばあちゃんは構える。


「またその話か。俺たちは誰も引き継がないって何度も言っているだろ

ババァ」と拓海さんは先陣を切るように発言した。


「なんじゃと?」


「俺は地方でサラリーマンを。和樹は自分の店を持つ夢を叶えるために寿司屋で修行中、和也は婿養子として嫁の家業を引き継いで漁師として送っている。俺たちにはこんな神社を引き継ぐ余裕はないんだ」


 うん、うんと三人の男兄弟たちは頷いた。


「だったらこの神社はどうする。廃業か?」


「廃業でいいだろ。どうせ流行っていなよ。今更神社なんて」


「お前ら、言わせておけば!」


「別に俺たちが引き継がなくても候補はいるじゃないか」


「なんじゃと?」


「なぁ、十六夜」


「わ、私?」


 神社の引き継ぎ候補として挙げられたのは十六夜である。


「無理、無理。私なんかじゃつとまらないよ」


「じゃ、何かやりたいことでもあるのか?」


「ないけど」


「なら十六夜でいいじゃないか。そうだろ? ババァ」


「ふん。まぁ、十六夜が引き継ぐなら問題ないが、少し不安じゃな」


「私、引き継ぎたくない」


「なんだと? 此の期に及んで何を言っている」


「私にだってやりたいことくらいあるもん」


「じゃ、言ってみろよ。俺たちが納得するようなやりたいことってなんだよ。十六夜」


「そ、それは……」


「なんだよ。やっぱりでまかせか?」


 拓海さんが煽る中、十六夜は決意を向けて発言した。


「私はゆうくんとずっと一緒にいたい。だから神社を引き継げません」


 十六夜の発言に家族たち全員が俺に注目した。

 ちょっと待て。なんか俺、とんでもない家族問題に巻き込まれていないか?




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