第40話 一ヶ月の期間
「一ヶ月以内に高嶺くんは私のことが好きで堪らなくなることを宣言します」
朝比奈さんは自信たっぷりにそう言い放つ。
「待ってよ。それってゲームなのか?」
「立派なゲームじゃない。勝敗の決め方は高嶺くんが私のことを好きって言った時点で私の勝ちだから」
「いや、勝手に決められても困るよ。大体、そのゲームは一方的すぎる。全部、朝比奈さんにとって都合がいいことばかりじゃないか」
「じゃ、公平にルールを決めよう。高嶺くんの要求は何?」
「俺はそもそもこんなゲームをやりたくない。俺が愛しているのは十六夜だけだ」
「それならそれでいいじゃない。その気持ちを貫いてよ。私はそれを邪魔するだけだからさ」
「邪魔って……酷いよ」
「だからゲームをしようって言っているの。もしゲームを受けてくれないなら私は意地でも二人の関係を邪魔する。ゲームを受けて勝敗が決まればそれ以上は何もしないって約束する。私から一ヶ月の間、色仕掛けを交わせばいいだけの話だし」
「な、なるほど。でもそれって結局、俺にメリットが一切ないよね」
「ゲームにメリットを求めるんだ。高嶺くんも人が悪いね」
「そうかな?」
「いいよ。じゃ、高嶺くんにもメリットがあるように条件を付けよう。私が勝てば勿論ないけど、高嶺くんが勝てたら都合の良い女になってあげる」
「都合のいい女?」
「呼んだら来てくれたり、性処理のお手伝いをなんかどう? 勿論一定の期間限定だけどね」
「はっ!」
「今、エッチな想像したね。それくらいのメリットなら問題ないでしょ?」
「でもそれっていいの?」
「勿論。結果的に略奪に繋がればオッケー。どう? これでゲームしようか」
「……どのみち十六夜と付き合っていくためにはこの試練を受けないと続けられないならするよ」
「試練って、ただのゲームだし。まぁ、受けるってことで成立だね。ゲームは今日から一ヶ月の期間。必ず好きって言わせてみるから覚悟してね。高嶺くん」
「……はい」
カラオケ店を出て帰宅途中で俺は頭を悩ませていた。
十六夜が好きなことは変わらない。だが、朝比奈さんにも魅力はあるんだ。
少しの油断で好きになってしまうことは容易にあり得る話だ。
「俺は十六夜一筋で頑張るぞ」
グッと拳を握り、誓いを立てた直後である。
ピロンッと通知が入る。
朝比奈さんからのメッセージだ。
開くと写真が送られて来ていた。
一体何を送って来たんだろうと軽い気持ちで開くとそこには朝比奈さんの胸が強調されたアップ写真に俺は思わず釘付けになる。
『Dです。十六夜より大きいのは内緒』と一文が添えられてハートが送られてくる。
早速、朝比奈さんの攻撃は始まっていた。
『ちなみに今日の誘いは十六夜の許可は取っていませんでした。ごめんね』
と、朝比奈さんから連続でメッセージが送られる。
「……やられた」
俺は朝比奈さんからの誘惑に耐えきることができるのだろうか。
ただでさえ、葵に注意を払って十六夜と付き合わなくてはならないのにその上、朝比奈さんの妨害も加われば俺のHPはどんどん削られてしまう。
「たった一ヶ月だ。それさえ乗り切れればなんとかなる」
そう決意を固めた。
そんな時だ。十六夜から電話が来た。
「もしもし」
『やぁ。高嶺くん。じゃなかった。ゆうくん。今、何していた?』
「えっと、ちょっと色々」
『あれ? まだ外? ゆうくんのことだからもう家に帰っていると思っていた』
「あぁ、ちょっと本屋に寄って最新刊を買っていたんだ」
『そうなんだ。いやぁ、今日は早退して申し訳ない。一緒に帰れなかったね』
「それはいいけど、何か用事だったの?」
『そうなの。実はこの日、夜桜家で久しぶりに家族が全員揃う日だから食材の買い出しとか忙しかったの。これから準備に入ります』
十六夜の家庭って実はあまり詳しく知らない。
家族があまり揃わない家庭なのか。そういえば気になるようでなかなか聞けず終いになっていた。
『それでさ、彼氏が出来たって報告していいかな? 写真見せたり』
「え? それはちょっと」
『ダメ? 別に家族内の話だから問題ないと思ったけど』
「まぁ、そうなんだけど」
『じゃ、うちに来ない? たまにはご馳走させてよ。いつもゆうくんにご馳走になっていたら悪いし』
「俺が十六夜の家に?」
『そう。ちょっと顔出すだけでもいいからさ。頼めないかな?』
「でも俺、人見知りだしなぁ」
『気にしない。うちの家族、フレンドリーだからすぐに馴染めるよ。お願い。ちょっとだけ顔だして』
やんわり断ったつもりだが、十六夜は強引に俺を誘った。
その先に何が待ち受けているのか未知数であるが、いずれ挨拶に行かないとならないことを考えれば早いか遅いかの話だ。
「じゃ、少しだけ……」
『ありがとう。住所、メッセージで送るね。あと、学生服のままでいいのと余計な手土産は不要だからよろしく!』
「りょ、了解」
十九時に十六夜の家に向かうことになり、俺は少し緊張しているのか、胸の鼓動が高まった。
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【元勇者の俺は勇者アカデミアを設立したが、何故か生徒が卒業出来ない件】
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