第39話 略奪愛
「…………ダメっていうのは?」
「ここまで言って分からない高嶺くんではないよね?」
それはつまり朝比奈さんは俺に好意を持っているということなのか。
確かに不自然な点は何点か見受けられたが、ここまでストレートに言われたのは今回が初めてである。
「ダメってわけじゃないけど、俺にはもう相手がいるわけで朝比奈さんとはそういう感じにはなれないというか、違うというか」
「そんなこと分かっているよ。高嶺くんが十六夜のこと好きだってことくらい嫌でもわかるさ」
「だったら何でそんなことを言うの?」
「それでもいいと思ったからだよ」
「それでもいい?」
「ほら。私って人気あるじゃない?」
自分で言うか。と、言いたいが実際はその通りなので返す言葉に迷った。
「十六夜と肩を並べて間違いなく男は私を選ぶ。勿論、割合的には分かれるけど6:4。良くて7:3っていうのが私の見解。つまり外観で選ぶなら私がイイってことなのよ。でも、私って追われる恋より追う恋が好きなわけ。何でか分かる?」
「えっと……ギャルだから?」
「私を追ってくる男は見た目だけを求めるからよ。私は中身を見て欲しいの。それでもって恋を掴み取りたいってこと」
「言っている意味がよく分からないのですが」
「うーん。カッコつけて言ったところで高嶺くんに響かないよね。じゃ、簡単に言わせてもらうと私は略奪愛に憧れているのよ」
「は。はいぃぃぃ?」
略奪愛とはその名の通り、付き合っている相手から奪うことを意味する。
「つまり私が略奪しようにも既に相手は私のことが好き。それって普通の恋じゃない?」
「そ、それはそうだけど略奪愛って相手の関係を壊すって意味だよ? その辺、分かっていらっしゃるのかな?」
「分かっていらっしゃるわよ。そっちの方が萌えるじゃない? 元々好きな相手から私に振り向かせるって興奮するのよ」
「ちょ、ちょっと待って。頭が追いつかない。考えさせてくれ」
「どうぞ」
ん? 朝比奈さんは略奪愛に憧れているってわけだよな?
つまり今の俺は十六夜と付き合っているわけであってそれを奪い取って朝比奈さんが俺と付き合おうとしている。
いや、その前に葵が俺に付き纏っている時から既に狙っていたってことなのか。
「考えがまとまりました」
「うん。それでどうまとめたの?」
「朝比奈さんは俺が好きっていうより略奪愛で振り向かせた俺が好きってことじゃないのか?」
「あぁ、確かにそう受け取れるね。合っているよ。現状は振り向かせていないわけだからまだ完全に好きではないかな」
「何でその対象が俺なの?」
「まぁ、簡単に言えば栗見さんだね。あれだけべったりな幼馴染から奪っちゃうって興奮するんだよね。でもそれは十六夜に奪われた。だったらその奪った十六夜から更に私が奪っちゃったら興奮はより倍増すると思ったの。これぞ、二重略奪ってこと」
二本指を立てて朝比奈さんはくっつけたり離したりする。
朝比奈さんの偏見がここで大きく露わになった。
「全くの他人ならイイかもしれないけど、仮にも相手は朝比奈さんの友だちだよ? 友情関係を壊しかねないことをして心が痛まないの?」
「痛まないことはないけど、私にとって友情よりも恋を優先する。友情はいっときものだけど恋って一生じゃん? 例え、絶交することになっても私は気にしないよ」
「だ、ダメだ! 友だちも一生ものだ。二人が絶好するのは俺が困る」
「ほよ? 高嶺くん。私たちのことそこまで思ってくれていたんだ。意外」
「だって俺にとって最初の友だちは十六夜と朝比奈さんなんだ。二人とは仲良くしていきたいし、二人とも仲良くしてほしい。それが俺の思いでもあるんだ」
「なるほど。高嶺くんの気持ちはよく分かりました。でも私は辞めないよ?」
「な、何で?」
「好きだから」
「いや、朝比奈さんが好きなのは俺じゃなくて略奪愛した俺が好きなんでしょ?」
「そうだよ。だから略奪したくてウズウズしている」
「全然分かってないじゃん」
「じゃ、ゲームをしようよ」
「ゲ、ゲーム?」
ゲームという言葉に俺は目を見開いた。
ゲームに関して俺は負けたくない熱意が一気に溢れ出た。
「ルールは簡単。私が高嶺くんを略奪愛に成功したら私の勝ち。失敗したら私の負け」
「何だよ。それ。そんなの時間が無限だったら勝負が付かないじゃないか」
「それもそうだね。なら期限を決めようか。そうだな……」と朝比奈さんは考え込んだ後、人差し指を立てた。
「一ヶ月。一ヶ月以内に高嶺くんは私のことが好きで堪らなくなることを宣言します」
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