第38話 発散したい
十六夜と付き合っている一方で葵の存在に注意を払わなくてはならない他にもう一人注意の対象がいる。
「高嶺くん。今日の放課後、カラオケに行かない?」
気楽な感じで声を掛けて来たのは朝比奈さんである。
朝比奈さんも何かと俺と距離が近いのだ。
それもそのはず。朝比奈さんとは友だちだ。友だちとしての付き合いは当然あるのだからこうして遊びに誘われるのも珍しくない。
だが、十六夜と付き合ってから俺は自然と朝比奈さんと距離を置くようになってしまった。
「あ、いや。今日はちょっと……」
「え? ダメなの?」
「ダメっていうか、用事はないけどちょっと」
そういえば朝比奈さんは十六夜と付き合っていることは知っているのだろうか。
十六夜が内緒で付き合っているつもりなら俺からは言えない。
「あぁ、もしかして十六夜に気を使っているとか?」
「あれ。朝比奈さんって知っているの? 俺と十六夜が付き合っていること」
「知っているよ。友だちだし。それよりもいつの間に下の名前で呼び合うようになっているのよ。この、この!」
朝比奈さんはからかうように肘で俺を小突いた。
「痛い。痛いよ。朝比奈さん」
「あーあ。先越されちゃったな……」
「え? 何が?」
「何でもない。安心して。十六夜からの許可は取っているから遊べるよ」
「え? そうなの?」
「そう、そう。さぁ、カラオケで発散しに行こうか!」
「発散って別に発散するようなことはないし」
「気にしない。気にしない」
「え、えぇ?」
ほぼ強制的に俺は朝比奈さんに連れられてカラオケボックスに連れて行かれた。
この日の十六夜は急用で早退したらしく聞くに聞けない。
電話もメールも反応がない状態だ。
「はぁ、やっぱりカラオケはジュース飲み放題で個室だし、学生としては最高の場所だと思わない?」
「あ、まぁ、そうだね」
「どした? ノリ悪くない?」
「俺は元々カラオケとか来ないし、そんな歌わないから未知の場所というか」
「いや、どこの時代の人だよ。今時の学生でそんな人いないから」
今日の朝比奈さんはやけにテンションが高い。元々ギャルっぽさもあるから全体的に派手なのだ。
「ここまで来て歌わないっていうのは無しだからね」
「分かったよ。ちょっと選ぶから先に歌って」
「そう? じゃ、遠慮なく」
朝比奈さんがチョイスした曲はアゲアゲの高音の曲だ。
しかも無駄に上手い。
俺は何を歌おうか。アニソンなんて入れたら引かれるかな。いや、アニソン以外知らないし。ここはアニソンだけど、その中でも一般的な曲を入れる。
「あ、それ〇〇の曲でしょ?」
一瞬でバレた。というより、これを知っている朝比奈さんは充分オタクなのか?
俺の部屋で慣れない漫画を最近読み始めているから多少の知識が付いたのかもしれない。
「お腹空いたね。軽く何か頼む?」
「じゃ、ポテトとか」
「オッケー」
モニター画面で調理をいくつか注文するとすぐに店員が運んできた。
「キタキタ! 食べようか」
「そうだね」
「ジュースが飲み放題で注文したら料理だって運ばれてくる。もうここ家だね」
「確かに。個室だし」
「あ、ここのポテトハズレだ。私、細くてサクサクしたやつがいいのに。ここのポテトはホクホク系の奴だ。高嶺くんはどっち派?」
「俺は……ホクホク系かな?」
「うわっ! タイプ真逆だね。じゃ、このポテトどうぞ。私、唐揚げもらうね」
美味しそうに食べる中、朝比奈さんの言動はここまでずっとハイテンションだ。
「朝比奈さんは何か発散したいことあるの? 全然、そうは見えなけど」
「あるよ。発散したいこと」
「え?」
「知りたい?」
「う、うん」
「それはね……」朝比奈さんは俺に顔を近付けた。
距離はほぼゼロ距離だ。
「朝比奈さん?」
「高嶺くん。私じゃダメ?」
朝比奈さんは悲しそうな表情でそう言った。
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『元勇者の俺は勇者アカデミアを設立したが、何故か生徒が卒業できない件』
ハイファンタジージャンルになりますが、こちらもよければ見に来て下さい。
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