第30話 友だちと恋人①


とある学校生活の中で俺はとある噂を耳にする。


「おい。聞いたかよ」


「え? なになに?」


 男子学生が集まって噂話をする場面に出くわした俺は興味ないフリをして耳を傾ける。

 人というのは不思議なもので噂話が好きな傾向がある。

 それが事実でも嘘でも話題になるようなネタには興味を引く。

 俺もそんな一人で聞くつもりはなかったが、偶然耳に入ってしまえば仕方がない。

それが事実でも嘘でも話題になるようなネタには興味を引く。

 俺もそんな一人で聞くつもりはなかったが、偶然耳に入ってしまえば仕方がない。


「まさか俺たちのマドンナに彼氏が?」


 どうやら噂話の話題は誰かに彼氏が出来たというもの。

 まぁ、誰が誰と付き合おうが関係ないのだが、意外な二人が付き合っていると聞けば興味を引くのも事実。

 俺としては全く興味ないが、たまたま聞こえてしまったと言えば仕方がない。


「まさか夜桜さんに彼氏が出来るなんて」


「まぁ、不思議でもないよ。夜桜さんに彼氏が出来るのはむしろ時間の問題だったわけだし」


「だよな。クーあんな子と付き合いたい!」


 は? 夜桜さんに彼氏? そんなこと聞いていない。

 俺は盗み聞きのつもりで通りすがりを演じていたが、ガッツリ聞く為に一時停止して噂話をしている男子学生に距離を詰める。


「それでその相手って誰だよ。他校のイケメンか?」


「それがどうやらうちの学校の奴らしいんだよ」


「で? 誰なんだよ。そいつ」


「それがさ……ん?」


 男子学生は視線を感じたようで振り向いて俺を直視する。


「あの……何か?」


「えっと。それで誰なんですか? その相手って」


 俺は両肩を掴んで激しく揺さぶった。

 盗み聞きの枠を超えたもので驚いた男子学生二人は俺から逃げてしまう。


「あ、ちょっと待って。誰なの? ねぇ」


 謎に恐怖を与えてしまったのか、肝心のところが聞けず終いになってしまう。

 夜桜さんに彼氏がいる? 

 これは確かめる必要がある。だけど、もし彼氏がいることが事実なら俺は……。

 夜桜さんと友だちを続けていけるだろうか。





 俺の知る中で夜桜さんに男の気配は感じない。

 学校では女友だちと喋るばかりで男と喋る姿は見ない。

 だが、俺のように影で繋がって付き合っている事実があるかもしれないことは拭いきれない。

 本人に聞くのが一番だが、聞くのが怖い。ここは周りに聞くことから始めよう。


「朝比奈さん。少し、いいか?」


 俺は二人になれるタイミングを見つけて朝比奈さんに声をかけた。


「高嶺くん。珍しいね。学校で声を掛けるなんて。葵ちゃんに見つかったらどうするの?」


「大丈夫。あいつは今、職員室に呼ばれている。それより聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?」


「夜桜さんのことだけど」


「十六夜がどうかした?」


「噂で聞いたんだけど、彼氏が出来たって本当?」


「さぁ、どうだろうね」


「どうだろうって一番仲良しだから知っているんじゃないの?」


「仲良しって言っても何でも知っている訳じゃないから」


「意外だな。夜桜さんのことなら何でも知っていると思っていた」


「それで? その噂はどこから聞いたの?」


「さっきその辺の男子が喋っていたのを聞いたんだ」


「なるほど。それでその真相を確かめようとしている訳だ。だったら私に聞くより本人に聞いた方が早くない?」


 的確な正論を突かれた俺は黙ってしまう。

 それはそうなのだが、と言いたいところだが、反応に困ってしまう。


「聞き辛いなら私から聞いてあげようか? 勿論、高嶺くんに聞かれたっていうのは内緒にしてあげるよ」


「い、いいのか? そんなことをしてもらって」


「まぁ、友だちの頼みだったら仕方がないじゃない? それに……」


「それに?」


「高嶺くんにとって私が良い友だちとして株を上げとかないとね」


 朝比奈さんは小悪魔的な笑顔を見せた。

 そこからいつもと変わらず朝比奈さんは夜桜さんと仲良く絡んだ。

 それとなく聞いてくれていることには感謝だが、使いっ走りにしてしまったようで少々心苦しさは拭いきれなかった。


『聞けた?』


 その日のうちに俺は朝比奈さんにメッセージを送っていた。

 催促しているようで申し訳なかったが、知りたい衝動を抑えきれなかった。

 しばらく既読が付かないまま、夜を迎えてしまう。


『聞いたよ』と唐突に朝比奈さんから返事が返ってきた。


『それで?』


『うん』


 うんって何?

 彼氏がいるのかいないのか。答えは二択のはずだ。


『朝比奈さん?』


『もし、彼氏がいたらどうする?』


 何故か朝比奈さんは話を逸らす。

 その問いに対して俺は真面目に返信する。


『友だちとして応援するよ』と俺は平然を装うような文章を送った。


『ウソつき』と朝比奈さんから速攻で返信が返ってくる。


 その文章に苛立って『ウソじゃない』と返す。


『じゃ、本当のことは何も教えられない。自分で聞くといいよ。それが早いから』


 朝比奈さんから素っ気ない怒りの返信が返ってくる。

 俺はすぐに謝るが、既読スルーをされてしまう。

 まどろっこしく思い、電話を掛けるが切られてしまう。


「何だよ。俺が何をしたっていうんだよ」


 俺はスマホをベッドに投げつけていた。

 何に対して怒っているのか自分でも分からない。

 朝比奈さんの対応に怒っているのか、夜桜さんのことが知れずに怒っているのか、自分自身に怒っているのか何も分からない。

 おそらく全てに対して怒っていることはわかる。

 自分が何をしたいのか、どうしたいのか答えは出ない。


「自分で聞くしかないか」


 聞いてどうするのか。その先まで考えていなかったが、それでも自分の行動に正直でいたかった。ただそれだけ。




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