第27話 栗見家

 

 テーブルの上にある俺のスマホに着信が入ったことを知った葵は動きを止めて歩み寄る。

 タイミング的にこの着信相手は朝比奈さんであることは間違いない。

 着信画面を見られたら最後、葵の不信感は一気に高まることにつながる。

 パッと葵は俺より先に着信画面を覗いてしまった。


「優雅……」


 終わった。俺の友だちライフの全てが全部。


「おばさんから電話だよ」


「え?」


 着信画面を見ると母さんから電話だった。


「もしもし」


『あ、優雅。今、家にいるよね?』


「あぁ、いるけど」


『そっち雨降っている?』


「雨? いや、降っていないけど」


『そう、こっち凄い雨だからもしかしたらと思ったけど、念の為に洗濯物を中に取り込んでくれる?』


「あぁ、分かった」


 そこで電話が切れてしまった。


「おばさん。何だって?」


「洗濯物を取り込んでくれって」


「なら私がやってあげるよ。将来の嫁として高嶺家に貢献しておかないと」


「馬鹿。そこまでしなくていいって」


「いいから、いいから」


 葵は嬉しそうに寝室のベランダへ行ってしまう。

そんな時に再び着信が入る。

今度は正真正銘、朝比奈さんからだ。


「もしもし」


『あ、高嶺くん。どう? 葵ちゃん帰った?』


「いや、実はまだ帰っていなくて」


『そうなんだ。それはタイミング悪かったね』


「帰ったら何かあったのか?」


『いや、ただの暇電だよ。まぁ、今日は辞めておくよ』


 朝比奈さんから電話が切られた。

 その直後に葵は戻ってきた。


「優雅。洗濯物、取り込んでおいたよ! ん? どうかした?」


「いや、別に。それより腹減ったな。何か食べるか」


「お? さっきまで否定的だったのに急にどうした?」


「いや、別に。この時間じゃ、出前はやっていないと思うからコンビニでもいくか」


「いいよ。買ったら高いし。家にあるもので適当に作ってあげるよ」


「作るってお前が?」


「他に誰がいるの?」


「いや、それだけは勘弁してくれ。それなら食べない方がまだマシだ」


「優雅。サラッと酷いことを言うね」


「いや、そうじゃなくてお前にそんな手間を掛けさせるのは悪いと思ってだな」


「その必死さが怪しい。でも安心して。うちで親がカレー作ってくれているみたい。どうせ余ると思うから優雅も食べにおいでよ」


 葵は母親から来た通知を俺に見せる。


「いいのか?」


「幼馴染の関係に変な遠慮はいらないよ。さぁ、うちに来てご飯食べよう」


 葵は俺を家に招き入れてご馳走してくれることになった。





「いらっしゃい。優雅くん」


「ど、どうも」


 葵の母親に招かれてリビングの椅子に座らせる。

 二十二時を過ぎたこともあり、葵の二人の妹は既に就寝したようだ。

 そして父親は残業帰りに飲みに出歩いているらしく、栗見家には葵と母親しか起きていない。


「カレーで申し訳ないけど、いっぱい食べていってね」


「はい。ご馳走になります」


 葵の母親が作るカレーは美味しかった。


「それにしても優雅くんも大変ねぇ。週末は両親がいなくて苦労するでしょ?」


「いえ。いない分、自由に出来て楽しいですよ。最近は週末が待ち遠しい時もあります」


 勿論、それは別の意味で楽しみであることだ。


「ご飯はいつもどうしているの?」


「小遣いを貰っているので適当に出前とかコンビニで済ませています」


「それじゃ栄養が偏っちゃうでしょ? 週末はうちで食べてもいいのよ? お母さんにも言っておくし」


「いえ、それは悪いので遠慮しておきます」


「もう遠慮するような仲じゃないのに」


 カレーをご馳走になった俺は席を立ち上がる。


「それじゃ、長居するのも悪いので俺はそろそろ帰ります。カレーご馳走様でした。また来ます」


「まぁ、もう少しゆっくりすればいいのに」


「そうだよ。優雅、帰ってもどうせ一人でしょ?」


 葵と母親の足止めが突き刺さる。このような展開が読めていたから葵の家でご馳走になりたくなかったのだ。


「そうだ。今日は泊まったら?」


 母親が思いついたように提案する。


「お風呂も入って来なさいよ。せっかくだし二人で入って来たら? 昔みたいに」


「昔ってそれは小学校低学年までの話ですよ」


 当然のようなツッコミに対して母親は「あら、そうだったかしら」と笑った。


「優雅。別に昔のように一緒にお風呂に私は入ってもいいんだよ」


「ば、馬鹿言うな。俺たちはもう高校生だぞ」


「もう。面白くないな」


「そう言う訳だから失礼します」


 そう言い残して俺は自分の家に帰った。




 毎回のように栗見家に行くとペースが乱されてしまう。

 俺はシャワーでサッと入浴を済ませて自室に入った。

 結局、この日は葵に振り回された一日に終わった。

 いや、今日始まったことではなくずっと振り回され続けている。

 夜桜さんや朝比奈さんは何をしているだろうか。

 もう寝ているかな?

 こっちから連絡するのは悪い気がしてメッセージを送ることに踏み止まっていた。

 そんな時である。


『寝た?』と朝比奈さんからメッセージが送られて来た。


 思わず俺は上半身を起き上がらせる。


『まだだよ』と送るとすぐに返事が返ってきた。


『良かった。じゃ、これから寝るまでゲームでもしようか』


 ゲーム?

 そのメッセージに俺の眠気が一気に冴えた。



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