第25話 勉強会


「金曜日に優雅の家に遊びに行ってもいいかな」


 葵の提案に俺は顔が引きつった。

 金曜日は毎週恒例になっている夜桜さんが家に来る日だ。

 週に一度だけ遊べる機会に葵が来てしまえば必然的に夜桜さんと遊べなくなってしまう。

 それが嫌で言い訳をしようと脳内を巡る。


「いや、金曜日ってお前……毎週ソフトテニスの部活があるじゃないか。土日の練習試合や地区大会で忙しい時期にそんな余裕ないだろ?」


「なんかやけに否定的じゃない? 私が遊びに行くのがそんなに嫌? それとも家に上げたくない理由でもあるの?」


 葵は怪しむように返す。ここで怪しまれたら問い正されてしまう。ここは自然な言い方で否定するしかない。


「そういう訳じゃないよ。ただ、何を優先にするか考えてみた結果の話さ」


「優雅の言いたいことは分かるよ。ソフトテニスが大事な時期だってことも」


「だったら俺の家に来るより……」


「だけど、部活よりも大事なこともあるんだ」


「大事なこと?」


「もうすぐテストがあるじゃない? もし赤点とったら部活に参加できなくなっちゃう。だから勉強を頑張らないとなって思ってさ」


「そういえばそろそろそんな時期だったな。なら尚更、俺の家に来て遊んでいる余裕ないだろ。勉強しろよ」


「だから勉強も兼ねて遊ぼうって言っているの」


「勉強はついでかよ。ダメだ。それに俺は忙しいんだ」


「一人だと娯楽で集中できないかもしれないよ」


「お前が居たら余計に集中できない」


「優雅の意地悪。私と一緒に勉強して。お願い!」


 何を言っても葵は引き下がる気配はない。こいつ、絶対家に来るつもりだ。

 今週は夜桜さんと遊ぶことを控えているが、テストのことを考えると遊びに誘うのは失礼かもしれない。ここはメールで夜桜さんに相談してみるか。

 基本、メール画面を葵に見られさえしなければいつだって夜桜さんと連絡は取り放題。

 早速、送信するとすぐに返事が返ってきた。


『そういえばテスト期間だったね。なら私も勉強しなきゃだし、今週の遊びは中止でお願いします』


 やっぱりそうだよなと思って俺はテンションが下がるが、スクロールさせると追加で文章が書かれている。


『遊びは中止だけど、皆で勉強しよう。勿論、栗見さんも誘っちゃえ』


 なんと夜桜さんは葵を誘った勉強会を提案した。

 果たしてそんな夢のような勉強会が出来るのだろうか。そんな会に葵が了承する訳がないだろう。だが、それは意外な形で成立してしまうことになる。




金曜日の放課後、葵は宣言通りに学校から直で俺に家に来ることになった。


「優雅の部屋に入れました! やったー!」


 両手を大きく伸ばしながら葵は喜びに浸る。


「別に初めてって訳じゃないだろ」


「そうだけど、何時間もじっくり居られることって最近なかったから嬉しくて」


「そんな嬉しいほど大層なものじゃないだろ」


「それにしてもゲームソフトや漫画の数の豊富さが尋常じゃないね。全部、中身見ているの?」


「当たり前だろ。買って満足するタイプじゃない」


「でも目を通した後は本棚に眠るんでしょ? スペースの無駄じゃない?」


「別にふとした瞬間に見たくなる時だってあるんだ。そういう意味では必要なものだ」


「一回見たらいいと思うけど、その辺の価値観が違うようだね。そこがいいんだけど」


「そんな指摘をするために俺の部屋に来た訳じゃないだろ。何をしに来たんだ。お前は」


「おっと、勉強だった。早くやりますか」


「全く」


 教科書とノートを広げて各々の苦手分野の勉強を開始する。

 俺は社会。葵は数学の勉強に専念する。

 最初は順調に進んでおり、好調だったのだが、ふと葵に目を向けるとベッドに寝そべり漫画をパラパラとめくっていた。


「おい! 葵。何で漫画を読んでいるんだよ」


「うわわっ! だってこの部屋で勉強しても集中できないんだもの」


「お前がここで勉強したいって言ったんだろ」


「そうだけど、やっぱり集中を阻害するものが多いよ」


 葵は集中力が散漫してしまうタイプだ。集中しようと思ったら娯楽を周囲から撤去して机に鎖で縛り付けるくらいしないと集中できないのかもしれない。

 ちなみに学力は中の中で平均的だ。少しでも気が緩むと赤点を取ることだってありえるギリギリラインだ。

 対して俺も似たようなもので勉強が出来るタイプとは言い難い学力だった。

 よってこの二人で勉強したところで大きな成果を出すのは難しいのが現状だ。


「休憩しようよ」


「休憩ってまだ三十分しか経っていないけど」


「休憩しなきゃ死ぬ!」


 案の定、葵は駄駄を捏ねる。ここまでは全て計算通り。

 よって俺は次なる作戦の為に裏で控えているある人にメッセージを送る。


「あれ? 十六夜ちゃんから電話? しかもビデオ電話?」


 葵のスマホに着信が入った。

 通話ボタンを押すと夜桜さんが画面に現れる。


『ヤッホー! 葵ちゃん。見えているかな?』


「うん。見えているよ」


『今、何をしていた?』


「勉強。まぁ、休憩中だけど」


『丁度良かった。こっちも勉強中なの。良かったら少しの間、一緒に勉強しようよ。お互いの集中力が高め合えると思うから』


「それは構わないけど、誰かと一緒にいるの?」


『うん。いつものメンバーだよ』


 夜桜さんの左右に朝比奈さんと夕野さんが画面に現れる。

 皆で手を振って葵に呼びかける。


「うわ。皆いる。私も実は優雅と一緒なんだよね。ほら、優雅も皆に挨拶!」


「お、おう。ど、どうも」


 何故か俺はよそよそしく手を振る。


『うわ。高嶺くんだ。葵ちゃんと言えば高嶺くんだよね』と夕野さんが納得するように反応を見せた。


 画面越しに葵と俺サイド。そして夜桜さん、朝比奈さん、夕野さんサイドが今、初合わせした。



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