第24話 阻止を突破
朝比奈さんと夜桜さんと友だちになった反面、葵も同じように二人と友だちになっていた。俺とは違い、隠れて交友関係を築く必要はないので学校では普通に喋る姿が羨ましく見えた。逆に俺は葵だけではなくクラスメイトの目を気にして気軽に喋ることができないので歯痒い気持ちが拭きれない。
心の中ではクラスで可愛い女の子二人とも俺の友だちだと自慢にしているが、それを分かるものは存在しない。この隠れながら仲良くしている感覚が喜ばしいのだが、金曜日以外は退屈なものだ。
「葵。何をやっている?」
「優雅に悪い虫がつかないように周囲を警戒しています」
「お前はSPかよ」
俺が移動する度に葵は半径三メートル以内を周回しながらガードマンのような振る舞いをする。
朝から女子に接触しそうな場面は今日だけで四回訪れた。
ほっておけば知らずに女子と接点を持つのは時間の問題だと思う。
だが、全て葵の計らいによって阻止されてしまっているのは言うまでもない。
余程、俺が葵から離れてしまうのが嫌なのだろう。
この様子では朝比奈さんや夜桜さんと裏で仲良しという事実には気付いていないに違いない。
俺の中に眠るラブコメ主人公体質は留まることを知らない。
そんな時だ。本日五度目となるラブコメの刺客が放たれようとする。
俺が階段を登ろうと手摺りに手を掛けた直後である。
「きゃ!」と上から女の子が足を滑らせて落ちてきた。
背中から落ちるその光景を瞬時に把握した葵は俺の前に立ち塞がった。
「優雅、危ない!」
葵が俺に接触させまいと壁になるも上からの圧力が強いのか、葵の壁は簡単に突破されてしまう。
葵にワンバウンドした直後、女の子は俺の顔に向かって覆い被さる形となった。
「ぶはっ!」
女の子のパンツが顔に埋まる形になり、身動きが取れなくなる。
葵が隣にいるにも関わらず、突破されたことは初めてのこと。
「なっ! ちょっとあなた。どきなさいよ」
葵は怒りながら俺から女の子を退けようとするが、気絶しているのか動こうとしない。
俺は無理やり顔を抜いて脱出を図った。
「大丈夫ですか?」
「優雅は触れないで。ちょっとあなた……」
その女の子は黒髪ストレートでメガネをした地味な感じの子だった。
階段から落ちたショックなのか、意識がない。
葵が揺さぶってみると、うなされるように目を覚ます。
「ん、んっ……!」と薄く目を開けた瞬間、あわわと慌てた様子を見せた。
「ご、ごめんなさい。私、寝ていましたか?」
「寝ていたというより気絶していたような?」
「私、また気絶していましたか?」
「また?」
「ごめんなさい。私、自分でも分からないくらい気絶する体質でして」
「あなた、大丈夫?」
葵が手を伸ばし、起こそうと引っ張るが、力負けしてしまった葵は逆に転んでしまう。
「何をやっているんだよ。あの、大丈夫?」
「ありがとうございます」
俺は女の子と目が合った。
それは一瞬の出来事であっても一時停止したような感覚になっていた。
「こら。私を差し置いて何をしているんだ。あんた、何者?」
「も、申し遅れました。私、一年六組の
「私の優雅に近づかないで下さい」
「え? 私、何かしましたか?」
無自覚系ヒロインに葵は翻弄される。
どんなに葵の鉄壁なガードがあってもそれをすり抜けて俺の元に辿り着いてしまう。
今まで居ないタイプのヒロイン登場に俺は注目した。
なるほど。メガネを外すと美少女に化けるタイプのヒロインか。悪くない。しかも天然系とみた。雨宮恵。この子は葵にとって脅威になる反面、俺にとっては望んでいない追撃系ヒロインになる可能性が芽生えた。
「それにしても階段を登っている時に気絶って危ないんじゃないか?」
「そうなんです。私、そういう体質なようで気絶から目が覚めると傷があるんです。今回はあなたに守られたようなので傷を作らず済みました。どうもありがとうございます。えっと、優雅さん?」
「優雅は私しか呼ばせません。言うなら高嶺です!」
「なるほど。高嶺優雅さんですね。ありがとうございました。高嶺さん」
葵は墓穴を掘ったようで雨宮さんに俺の名前を言ってしまったことを後悔する。
背の低い葵の頭一つ分高い雨宮さんは葵に目も呉れず、俺に礼を言う。
悪い気はしなかったが、葵の顔は引きずっている。
「何よ。あの女。私を無視して優雅とイチャイチャしちゃって。許せないんだから」
「お前、陰湿なイジメとか企むんじゃないぞ」
「私がそんなことをするように見える?」
見えると言いたいが、言葉に出してしまうとまた怒ることは目に見えていた。
葵の阻止が通じない女子がいることに驚いたが、友だちである朝比奈さんと夜桜さんの存在がバレてしまった時がどうなるか怖い。
墓場まで持っていきたいが、そこまで友だちを続けていけるのか不安である。
そもそも男女の友情は存在するのか自分ではよく分かっていない。
あると信じたい反面、どうしても葵の存在がチラついた。
「何よ。私の魅力にでも見とれちゃったかな?」
「あぁ。そういうことにしといてくれ」
「完全にお世辞だと分かるけど、優雅に言われると何を言われても嬉しい自分がいる」
「お前は変態か」
「うん。そうかも。優雅の前では理想の女の子になってあげるよ」
「ならたまには一人にさせてくれないか」
「うん。拒否する」
俺の前から離れることは葵にとって負けヒロインの入口であることを意味する。
流石にその提案は受け入れられないのだろう。
「そうだ。たまには優雅の家に遊びに行ってもいいかな? 金曜日とか」
「き、金曜日?」
俺はかなり嫌な顔をしたことを自覚していた。
なんとか回避しなければならない。それだけが脳内に巡っていた。
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