第21話 クラスのツートップ訪問
朝比奈さんと友だちになったことで俺の家で遊ぶことが決まってしまった。
学校内では葵にバレることを避けて喋ることを控えている訳だが、おそらく朝比奈さんから夜桜さんに話はいっているに違いない。
アイコンタクトは取るが喋らないことには何も分からない。
そんなことから恒例の金曜日を迎えることに。
「ふーん。ここが高嶺くんの家か。随分立派だね。うちより豪華じゃん」
「それはどうも」
放課後、俺はクラスの一番と二番の可愛い女の子を引き連れて家に迎い入れることになった。
「なんか学校からここまで来る間、ずっとよそよそしい演技して疲れちゃったよ。十六夜、いつもこんな苦労して高嶺くんの家に来ているの?」
「まぁね。それより可憐が本当に高嶺くんと友だちになっているなんてビックリしちゃった。しかも家にまで来るなんて」
「えへへ。自分でもビックリ。それにしても漫画いっぱいあるね。満喫じゃん。ウケる」
俺の家なのに変に気を使ってしまう。
それに俺を抜きに二人は普段と変わらないような会話を繰り広げており、俺に入る余地がない。
「俺、お茶入れてくるよ」
「え、別にいいのに」
「いや、入れさせてくれ」
俺は部屋を出る。
お湯を沸かしながらようやくホッと一息入れる。
嘘じゃないんだよな。俺の部屋に美少女が二人もいるなんて今まででは考えられない奇跡だ。二人とはいえ、こうしてワイワイ出来ることをどれくらい望んでいただろうか。
そういえばあの二人に対してお茶とせんべいって味気ない気がする。
洋菓子とミルクティーのようなオシャレなものを出すべきではないだろうか。
いや、うちにそんなものないし、買って来るか。
「ねぇ、高嶺くん」
ピーとお湯が沸く音と共に夜桜さんが俺の背中に向けて声を掛ける。
「ひゃっ!」
「ひゃって変な声出さないでよ」
「悪い。それでどうした?」
「変に気を使っているんじゃないかって様子を見に来た」
「あぁ、ちょうどそんなとこ考えていました」
「いらないよ。お茶は欲しい。ちょうど喉乾いていたところ」
「どうぞ」
「ありがとう。それより可憐と仲良くなるなんて高嶺くんもやるね。どんな裏技を使ったの?」
「裏技って別に。俺から希望した訳じゃないし」
「え? 可憐から希望したんだ。意外」
「俺も意外だったよ。こんなことってあるんだなって」
「私だけでも充分すぎる幸運だったのに可憐まで友だちに引き込むなんて運の使いすぎだね。今後の運は訪れないかもしれないよ?」
「縁起でもないこと言うなよ」
「嘘、嘘。それ、私が運んであげる。さぁ、早くゲームやろうよ」
「お、おう」
部屋に戻ると朝比奈さんはお気に入りの漫画を見つけたのか、足を折り曲げて部屋の隅で読んでいた。
「朝比奈さん。もう少し姿勢を楽にしたら? ベッドの上も乗っていいし」
「ありがとう。でも私って狭いところの方が落ち着くんだよね」
「そう。それならいいけど」
「はい。高嶺くん。このあいだの続きやろうか」
夜桜さんは俺にコントローラーを差し出してゲームをやることを急かす。
そこから言葉を交わさずともそれなりに二人は楽しんでいた。
朝比奈さんが五巻目を読み終えた直後である。
「フゥー。目が疲れてきちゃった。バトル漫画って読んだことなかったけど、案外面白いね」
「それ、五十巻以上出ているからいっぱい楽しめるね」
「そんなに出ているの? なんか萎えてきた」
十分の一で萎えてしまえばこの先が大変だ。
だが、漫画というのは読む辛さよりも内容の面白さで読み進めてしまうものだ。
気付けば読み終えてしまって続きを待つ状態になるもの。
朝比奈さんはその極みまでまだいっていないようなのでまだまだだと心の中で思う。
「はぁ、字を読んだらお腹空いちゃったな」
「そうだね。私も目が疲れてお腹空いちゃった」
「ねぇ、二人は何を食べている訳?」
「適当に出前とか? 朝比奈さんは何が食べたい?」
「うーん、そうだな。なんでもいいや」
なんでもいいが一番困る。
「じゃ、私はカツ丼が食べたい。可憐もそれでいい?」
「うん。いいよ」
「じゃ、高嶺くん。出前お願い」
「了解した」
近所のチェーン店に電話をしてカツ丼三つを注文する。
そういえば、夜桜さんはいつも曖昧な返事はせず、的確な返事をする。
いつもこれがしたい、これが食べたいと決めてくれるので考える手間が省けて助かっているのが現状だ。
時刻は二十時を過ぎた頃だ。
夜桜さんはいつも二十一時過ぎ。長くても二十二時まで遊んでいるが、その常識が朝比奈さんも同じとは限らない。
「朝比奈さんは何時までに帰らないといけないとかあるの?」
「門限のこと? 別にないけど」
「無いって親が心配するんじゃない?」
「別にそんなことないよ。親いないし」
「いない?」
「あぁ、私の家庭事情言っていなかったっけ? 私、今は祖母の家で生活しているの。お母さんは私が中学生の時に事故で亡くなってお父さんは私が生まれた時ぐらいから刑務所に収監されているんだ」
軽い感じで朝比奈さんは打ち明けた。
当然、反応に困る事情だ。
「あぁ、そんなシンミリしないでよ。私が可哀想な子に見えちゃうから辞めてね」
「大変だね」と出てきた言葉はそんな当たり障りのないものだった。
「別にもう慣れっこだよ。家に帰ってもつまらないし、こうして友だちといる時間が私にとって大切なんだよね」
普段、キラキラとして遊び歩いているイメージの朝比奈さんだが、そんな事情を聞いて少し見方が変わった。
笑顔の奥では苦労しているんだ。
「まぁ、あんまり長居しても高嶺くんに悪いし、私そろそろ帰るわ」
そう言って朝比奈さんは立ち上がる。
「あぁ、可憐が帰るなら私もそろそろ帰るよ」
夜桜さんもゲームを中断して帰る準備をする。
そんな時だ。
ゴゴゴゴゴッと雷鳴が響き渡った。
「え?」と思い、俺はカーテンを開けると土砂降りの雨が降っていた。
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