第20話 友だち同盟と本音
クラスで二番目に可愛い夜桜十六夜に続いてクラスで一番目に可愛い朝比奈可憐と交友関係を築くことになった俺は罪悪感に支配されようとしていた。
まず、クラスの男子諸君が喉から手が欲しがるツートップの可愛い女の子を影で仲良くなっていることを知られれば注目を集めてしまう。
そうなってしまえば俺は変な目で見られることになるだろうし、何と言ったってあの葵が黙っていない。これは知られる訳にはいかない。
そう考えると朝比奈さんと友だちになったことはリスクが二倍に増えることを意味していた。この先、二人との交友関係を隠し通せる自信がない。
「それでね。優雅。この間、見たテレビのことなんだけど……」
何も知らない葵は呑気でどうでも良いことをベラベラと喋る。
念願の友だちが出来たとしてもその友だちは誰もが憧れる存在であることから気軽に喋れないのが歯痒い。
学校内では少し息が詰まりそうだ。授業が終わり靴を履き換えようと手を伸ばした時だ。
「ヤッホー。高嶺くん。今、帰り?」
軽い感じで話しかけてきたのは朝比奈さんだ。
「シー」と俺は人差し指を口に当ててジェスチャーする。
「何?」
「何って俺たちの関係は内緒だろ。葵に見られたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。近くに誰もいないし。それより友だち記念として一緒に帰ろうよ」
「いや。そう言う問題じゃなくて。とにかく学校内出るまで俺から三メートル以上離れて歩いて」
校外に出てしばらく朝比奈さんを一定数の距離を保ちながら歩いている最中のこと。
俺の言いつけ通り、朝比奈さんは俺の後頭部に向かって声を掛ける。
「ねぇ、いつまで離れて歩くの?」
「じゃ、そろそろいいかな」
ピタリと立ち止まり、俺は朝比奈さんに振り向く。
「朝比奈さん……」
「ねぇ、時間あるでしょ? どっか寄ってこうよ」
「俺は朝比奈さんの目的が分からないよ」
「目的? 何のこと?」
「君のような可愛い子が俺のようなインキャと友だちになろうって普通じゃ考えられないからさ」
「そういう風に思っていたんだ。大丈夫。そんな気構えなくても裏なんてないから。ただ、十六夜が仲良くしているなら絶対良い人だと思うし、私とも仲良くしてくれたら嬉しいなって思っただけだし」
朝比奈さんの言い草から純粋な気持ちで俺に近づいたと見て取れた。
「友だち記念としてハンバーガー店に行こう! ポテト食べたい気分だし。ね?」
朝比奈さんは眩しい笑顔で言う。
俺は何かとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
店の一番隅っこでポテトLサイズを三つ注文してポテトパーティーが始まろうとしていた。
「二人でこんなに食べられるかな?」
「何を言っているの。若いんだから余裕でしょ。それとも高嶺くんって意外と少食?」
「余裕だし」
「ではポテトパーティー開始だね」
こうして朝比奈さんと言葉を交わすことで気付いたことがある。
朝比奈さんと話すと楽しい気分になる。性格が真逆な分、ギャップがあるようで自然と笑っている自分がいた。
だが、それよりも確認しなくてはならないことがある。
「ところで朝比奈さん。葵にこの関係を隠すことは大前提として夜桜さんにも言わないでほしい」
「無理」
「なっ!」
「だって十六夜は私の親友なんだよ? 隠し事なんて出来ないよ。それにどうして十六夜に隠す必要があるの?」
「そ、それは……」
「友だちとは言っても好きなんだよね。十六夜のこと」
「な、何でそれを?」
「見ていれば分かるし。でもどうして? 目の前に可愛い幼馴染がいるのにどうして他の女の子を求めるの? それってかなり贅沢じゃない?」
不意をついた朝比奈さんの問いは図星である。
第三者から見れば間違いなくそう思うのも無理もない。だが……。
「朝比奈さんは逆の立場だったら受け入れる?」
「無理だね。私、決まった相手を求めるより好きな人と一緒にいたいと思うし。あ、そっか。高嶺くんは私と同じタイプってことだ。そしてその好きな人って言うのが十六夜。友だち以上恋人未満の関係を楽しんでいるってことだよね?」
事実だが、こうして言葉にして言われると恥ずかしい。
「あぁ、そうだよ。だから朝比奈さんとも仲がいいって知られたら離れちゃうかもしれないだろ?」
「それはないんじゃないかな? 十六夜って交友関係を大事にするタイプなんだよ。他人から突き放されることはあっても自分から突き放すことはない。高嶺くんはまだまだ十六夜のことを知らないようですな」
「……じゃ、夜桜さんには言っていいよ。でもその他の人には内密にお願いできないかな?」
「オッケー。できる限りやってみる」
その軽い口調が不安に感じさせる。
ポテトを完食してジュースで流し込んでいる時である。
「ところで十六夜と普段何をして遊んでいるの?」
「別にたいしたことは……家で漫画を読んだり、一緒にゲームしてご飯食べてってそんな感じだよ」
「家? 家って高嶺くんの家に十六夜が行くってこと?」
「まぁ、そうだけど」
「え? 家に出入りする仲ってこと? やば」
「し、仕方がないだろ。夜桜さんのゲームや漫画で隠れながら遊ぶってなれば自然と家しかないわけだし」
「ラッキー事故の予感」
「いや、そう言うことは断じてない」
「まぁ、高嶺くんも十六夜もそんな度胸なさそうだしないよね」
カランとジュースの中身をストローで吸いきった直後である。
「そうだ。良いことを思い付いた」
「良いこと?」
「私も高嶺くんの家に行ってもいい?」
「何で?」
「面白そうだから」
「でも、朝比奈さんってゲームも漫画も興味ないんじゃ……?」
「うん。興味ない。でも、そういう経験も必要かなって思ってさ。ねぇ、良いでしょ?」
俺は断る理由もなく頷くしか出来なかった。
ただ、友だちが増えたことは喜ばしいことだが、その分、リスクが増えたことに比例するのである。
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