第18話 疑惑


 土曜日に一日中、夜桜さんのメールをした後の月曜日のこと。

 俺にとって。いや、世の大半の人々にとって憂鬱な日であることは間違いない。

 だが、今の俺の気分はそんな憂鬱さを吹き飛ばすくらいフワフワした気持ちになっていた。

 その理由は単純で女の子とどうでもいいことでメールをしたのは意外と楽しかった。

 それが今でも抜けない。どうせ毎日のように顔を合わせているとしても特別に感じていた。

 そんな夜桜さんとは相変わらず教室内では普通のクラスメイトとして接していた。

 むしろよそよそしく本当に仲のいい友だちなのが疑問に感じるくらいに。

 本当であれば、趣味についてずっと喋っていたいが、俺たちの関係は誰にも知られてはならないことから我慢している反面があった。

 特に葵には何が何でも夜桜さんとの関係を知られるわけにはいかない。

 もし知られるようなことがあれば間違いなく友だち関係を終わらせに動くからだ。


「ねぇ、優雅!」


「ひゃっ!」


 俺は夜桜さんにメッセージを書いていたところ。葵は何の前触れもなく声を掛けてきたことで変な声が出てしまった。


「何を慌てているのよ」


「べ、別に何でもないよ」


「そんな訳ないじゃない。エロサイトでも検索していたんじゃないの?」


「してないよ」


「ふーん。どれ、見せてよ」


 葵は無理やり俺のスマホを奪おうとする。

 今、この画面を見られる訳にはいかない。夜桜さんの連絡先を知っているなんて知られたら一巻の終わりだ。


「や、やめろって」


「そこまで必死に隠すってことはかなりやばい性癖だな」


 やばい。葵に変な熱が入ってしまった。こうなってしまえば葵の好奇心は止まらない。

 何とか別のものに意識を逸らしてもらわないと……。


「あの、ちょっといいかな?」


 そこに声を掛けてきたのは朝比奈さんだ。


「朝比奈さん? 何? 優雅に用があるなら私を通してもらわないと困るんだけど」


 葵は警戒態勢で朝比奈さんを睨む。


「いや、高嶺くんじゃなくて栗見さんに用なんだけど」


「私に?」


「ちょっとこっちに来てくれる?」


 そう言って朝比奈さんはいつものグループへ誘導する。

 そこは朝比奈さん、夜桜さん、夕野さんといういつものメンバーの集まりだ。

 クラスのスリートップのグループは別格で頭一つ輝いて見えるほど。

 眩しすぎて一般の男子生徒は近寄りがたい華やかさがあるのだ。

 そんなグループへぶっきら棒に向かう葵だったが、何やら喋り始めることで葵は笑顔になっていく。まさかのスリートップグループの仲間入りとも言える光景だった。

 何を話しているのかこの距離では聞き取れないが、何処となく楽しそうな雰囲気に俺はホッとした。

 いや、ホッとしたのはスマホの画面を見られずに済んだことかもしれない。

 それにしても何で盛り上がっているのか。四人の会話に俺は取り残されたようでならない。


 実は葵の交友関係はサッパリしている。

 友だちと言える人物はいないが、葵の場合は当たり障りがないようで何処のグループにも所属できる要因がある。

 クラスの中心人物というよりか、クラスのムードメーカーとして存在そのものが好かれることが多い。

 よくクラスにいる存在だけで安心感がある立ち回りの役目を担っていると言える。

 その人柄がたまに羨ましいと感じる。

 葵はちっちゃくて笑顔が可愛いからいじられキャラとしているだけで癒されたり安心させる要因がある。そこが気に入られるのかもしれない。

 葵は何事もなかったように俺の元へフラリと戻って来たので聞いた。


「何を話してきたんだ?」


「ふふん。内緒」


 生意気だな、こいつ。


「まぁ、一つ言えるとしたら仲良くなった。今度、遊びに行こうって誘われちゃった」


「へー。良かったな」


「優雅には関係ないよね。私がいるだけでそれでいいでしょ」


「何が言いたい?」


「べっつにー」


 葵の言動はよく分からない。

 分からないからこそ怖いというのが現状だ。

 学校内では葵は片時も俺から離れない。

 だが、ずっとではなく必ず隙はある。

 それはトイレに行く時だ。

 用を足して教室に戻ろうとしたその時だ。

 男子トイレの前に朝比奈さんが立っていたのだ。


「高嶺くん」


「な、なに?」


 朝比奈さんが俺に用?

 いや、以前もこのような展開があった。

 だが、それは葵によって邪魔された。

 そして現在、葵はいない。


「高嶺くんって栗見さんと結婚するつもりなの?」


「は? 別にそんなつもりは……」


「ないんだね。じゃ、次の質問」


 何だ。なぜ朝比奈さんは俺にこんなことを聞くんだ。

 それに何故か、朝比奈さんに責められているような気がする。

 朝比奈さんが足を広げて腕組みをしているのがそう勘違いさせている要因なのかもしれない。


「友だちがいない高嶺くんに質問です」


「何だよ。その引っかかる言い方。まぁ、事実だが……」


「ズバリ! 高嶺くんは十六夜と付き合っているでしょ?」


 朝比奈さんは俺に指をさしながら質問を投げかけた。


「な!」


「さぁ。答えてもらおうじゃないの。高嶺くん」


 あれ? この展開、俺ってやばくね?

 朝比奈さんに迫られた俺は冷汗を流していた。

 


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