第17話 メール
夜桜さんと串カツ食べ放題の後、ゲームセンターに行ったその翌日のこと。
その日はすぐに寝てしまい、目を覚ましたのはスマホの通知音だった。
「ん? いつの間に寝たんだ? 今、何時?」
時刻は朝の五時。普段であれば目覚めることのない時間だ。
休日ではまず起きない。いや、この時間に寝るような時間ではないだろうか。
二度寝しようとしたその時、スマホの画面を見て一気に目を覚ます。
「え? 夜桜さん?」
通知の正体は夜桜さんからのメッセージである。
『おはよう』のスタンプ押されただけの雑なメッセージだ。
だが、今の俺にとってそれだけでも嬉しかった。
俺はすぐに返事を返した。
『夜桜さん。昨日はどうしたの?』
その返信に対してすぐに既読が付いた。
『わっ! 起きていた』
質問に対して現状のコメントを返す夜桜さんがもどかしかった。
とりあえず消息不明の疑いは晴れたわけだが、どうして昨日突然いなくなってしまったのか。その理由が一刻も早く知りたかった。
メールはまどろっこしいと思い、俺は電話をかけてみることにした。
今なら出てくれると確信を持って掛けてみたわけだが。
ワンコール鳴った直後、ガチャ切りされてしまう。
明らかに俺のことを避けているような態度に見えた。やはり俺は昨日何かしでかしてしまったのだろうか。
直後に夜桜さんから『今、電話無理!』と返された。
俺は謝罪の返信と昨日のことを聞いた。するとようやくまともな返信が返ってくる。
『昨日、突然帰った件だけど。両替から戻ったら栗見さんを見かけて急いで隠れた。私が高嶺くんと一緒だと誤魔化せないでしょ? だから姿を暗ませました』とのこと。
連続のメッセージに『本当はもう少し高嶺くんと遊びたかったんだけどね』と添えられたことで少しホッとする自分がいた。
『そういうことだったのか。ナイスファインプレー。気を遣わせてしまってごめん』と謝罪のスタンプも添えて返信する。
『メッセージ返さなかったのは栗見さんと帰ることを想定したら私のメッセージを怪しませちゃうから無言を貫いていました』といないところでも気を遣っていたというのだ。
流石というべきか、よく考えられていた。
それを知らずに俺は一人で暴走してバカみたいではないか。夜桜さんの方が一枚上手だ。
もし、夜桜さんのファインプレーがなかったら葵に気付かれて今の関係は失われていたかも知れない。そう考えると夜桜さんに救われたことになる。
昨日の疑問が解決したことで俺は新たな疑問を夜桜さんに聞いてみることにした。
『ところで夜桜さん。こんな朝早くに何をしているの?』
普段から早起きなのだろうか。それとも何か用事でもあるのだろうか。
『今日はお父さんと釣りなの。ちょー眠い』と欠伸のスタンプも添えられて返信が返ってきた。
釣り? 夜桜さん。釣りするのか。確かに釣りといえば朝が早いイメージがある。
隣にお父さんがいたら電話に出られないことも納得である。
『お父さん、釣りが趣味でたまに連れてかれるの。今日なんてほぼ強制。予定がないって言ったらじゃ、釣り行こうってな感じです』
『家族サービスお疲れ様です』
『笑。それ、お父さんが言われるべき言葉』
夜桜さんにウケた。
それから俺は夜桜さんとのメッセージが楽しくなり、現在進行形のやり取りを続けることになる。
俺の休日の進行は話せるような内容ではなくすぐにネタが尽きてしまうが、夜桜さんの休日が充実しているようでそっちで盛り上がりを見せる。
すぐに返信が返ってくることを考えると釣りというのはとにかく暇との戦いらしい。
魚が食いつくまでの間はとにかく待ち続ける忍耐が必要とのことだ。
やったことがない俺にはその奥深さがイマイチ伝わってこないが、夜桜さんの話を聞いてみると面白そうだと感じる。
暇を潰しながら夜桜さんとメッセージのやり取りをするといつの間にか昼を過ぎようとする。
『いつまで釣りをするの?』と聞いてみると『お父さんが飽きるまで』とのこと。
父親の趣味に付き合わされている娘と考えると夜桜さんが可哀想に感じた。
それを伝えてみると『別に嫌々ってこともないよ。釣れると楽しいし』とのこと。
最終的に何匹釣れたのか聞いてみる。
『私は七匹。お父さんは五匹だよ』
『夜桜さん上手いんだね』
『今日はそうでもないよ。釣れる時は二十匹以上釣れる時もあったし』
『すごい』
『しばらく魚料理が続きそう』
『夜桜さん。魚捌けるの?』
『小ぶりの魚だったら余裕。大物だと力がいるから無理だけど』
魚を捌ける夜桜さんを想像すると格好良く見えた。
俺は触るのも無理なのに夜桜さんがたくましい。
『簡単だよ。今度、教えてあげようか』
『いや。俺はいいよ』
『男なら魚くらい捌けなきゃ!』
『じゃ、よろしくお願いします』
『任せなさい』
何故か夜桜さんから魚を捌く伝授を受けることになる。
休日に一日中、夜桜さんとメールが出来たことに少し嬉しく感じた。
内緒で仲良くしている分、こうして隠れてメールをしていることに悪いことをしている気分になる。
『ところで栗見さんには私たちの関係、疑われたりしていないかな?』
『大丈夫。今のところ、何も気づいていません』
『そう。それならこれからも仲良く出来そうだね』
夜桜さんのこの言い方。
葵にこの関係がバレてしまった時は俺たちの友だち関係に終止符が打たれる。
そんなように言われているようでならなかった。
それでも今は少しでも夜桜さんとの関係を続けたいと切実に願う自分がいる。
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