勝確の幼馴染がラブコメ展開を全力で阻止する件〜その一方で負けヒロインと仲良くなってしまう〜

第14話 ゲーセンで発散

　串カツの食べ放題は満足だった反面、店を出た後に満腹で苦しさが襲ってきた。

「ちょっと食べ過ぎたかな。食べ放題って聞くといつも限界まで食べちゃうんだよな」

「確かに。それが食べ放題の罠でもあるよね」

　俺と同等。いや、それ以上食べた夜桜さんはお腹を抱える始末。

「さてと、空腹も満たせたところだし、早速次の場所へ移動しましょうか」

「いや、もういいんじゃないか。俺、もう帰りたいんだけど」

　満腹になれば同時に眠くなる現象が付き纏う。

　まだそれほど遅い時間でもないにも関わらず、寝る環境が整っていればそのまま寝落ちしてしまう自信がある。

「活動時間、短か過ぎでしょ。食べてすぐ寝ると太っちゃうよ？」

　夜桜さんの発言に一理あるが、一日に千円以上使うと無駄使いした気分になってしまう。

　これ以上、使える金として残り五百円がいいところだろうか。

　高校生の俺にとって例え五百円であれ、大金に変わりない。

「まだ遊び足りないから次に行こうよ。まさかこんな繁華街にか弱い女の子をほっといて帰るなんてないよね？」

「そんな脅すような言い方するなよ。分かったよ。行くから」

　ここは夜桜さんに従うしかない。

　串カツ屋を出た俺と夜桜さんは駅ビルのアミューズメント施設へ移すことになった。

　この会話が出来ないくらいざわざわした機械音は心地良さを感じる。

　ゲーム好きの俺としては合った場所とも言えるだろう。

「お待たせ。メダルに変えてきたよ」

「ありがと」

　夜桜さんと二人で五百円ずつ出し合って千円分のメダルを二人で使うことになった。

　カップいっぱいに入ったメダルはかなりの量である。

　これなら一時間くらいは遊べるだろうか。

「高嶺くんはこういうの初めて？」

「まぁ、でもゲームなら得意だよ」

「初めてってことだね。実は私も。ということで勝負しようか。今から一時間以内でどちらが多くのメダルを所持しているか勝負しましょうか」

「まぁ、いいけど。ただ勝負って言われてもやる気出ないんだよな」

「なら賭け事でもする？　勝負するからには緊張感がいると思うし」

「でも賭け事って言っても俺にはもう払える金はこのメダルで使い果たしたからないぞ？」

「別に現金を賭けるだけが賭け事じゃないでしょ」

「じゃ、何を賭けるんだ？」

「そうだな。じゃ、勝ったら負けた人になんでも言うことを聞いてもらうって言うのはどうかな？」

「……なんでも？」

「あ！　今、エッチなこと想像したでしょ？」

「いや、別に……」

「当然、常識の範囲内だけだよ。エッチなことや犯罪に近いようなお願いは受け入れません」

「わ、分かっているよ。誰もそんなくだらないお願いなんてしないよ」

「ならいいんだけど」

「と、なれば何をお願いしようかな」

「考えなくていいよ。勝つのは私だから」

「いい度胸だな。ゲームで俺に勝てると思うなよ」

「所詮、メダルゲームでしょ。じゃ、ゲームスタート」

　一時間と言う短い時間で確実に増やせる台はなんだろうか。

　小学生の時に葵とメダルゲームをした覚えがあるが、今では種類も豊富で何で遊べばいいか悩んでしまう。

　目に留まったのはバベルの塔ならぬメダルの塔だ。スライドした機械がメダルを押し上げて徐々に出口へメダルが落ちるシンプルなゲーム。

　これはある程度、メダルを所持していないと出来ないメダル持ちがするゲームだが、今の俺は挑戦できる。

　これで一回落とすだけで手持ちの三倍以上の元手は取れるに違いない。

　チマチマ増やすよりこれで一発逆転を狙った方が効率いいと考えた俺は狙い目の台に座ることにした。タワーは後人押しで落ちそうなくらいギリギリの位置だ。

　これに全てを賭ける。

　一枚ずつメダルを入れてタワーが崩れるように調整を重ねる。

　だが、思ったよりもタワーは絶妙なバランスを保っており、ちょっとやそっとでは倒れてくれない。手持ちのメダルがどんどん溶けていく。

　早いところ崩れてくれないと手持ちが無くなってしまう。

　一時間のリミットまで残りわずか。

「頼む。崩れろ。崩れろ」

　遂に俺は心で念じていた感情が言葉となって漏れていた。

「おぉ、やってんね」

　横から顔を覗かせた夜桜さんは俺の台を直視した。

「あれ？　もしかしてもう時間？」

「いや、まだ五分はあるよ」

「夜桜さんはもうやらないの？」

「丁度キリが良かったから辞めた」

「もう少しで崩れる。その時は俺の勝ちだ」

「果たして崩れるかな？」

　煽りを入れる夜桜さんに対して俺は真剣だった。

　手持ちは後僅か。時間も少ない。

「これで決める」

　念じたメダルを投入したその瞬間、手強いメダルのタワーは遂に崩壊した。

　取り出し口へ一気にメダルが雪崩れ込んだ。

「っっしゃー！　見たか！　一発逆転だ」

「タイムアップ。丁度、約束の時間だね」

「ははは。どうだ、夜桜さん。俺の逆転勝ちだ。さて、言うことを聞いてもらおうか」

「勘違いしているところ悪いんだけど、この勝負は私の勝ちだよ」

「何を言って……」

　俺が落としたメダルはザッと見積もって千枚以上。

　だが、夜桜さんは手ぶらでメダルがない。負け惜しみを言っているのだろうか。

「重すぎるからメダル金庫に入れちゃった」

　そう、店内にあるメダルバンクという口座が用意されていた。

　そこには次回使えるように預けることができる機械である。

　預かりメダルの枚数を見ると『２２１５枚』と表示されていた。

　圧倒的な枚数に俺は驚きを隠せなかった。

「い、いつの間に……。こんな短時間でこの枚数を稼ぐとしたら俺がやっているゲームか現金で無理やりメダルを増やす以外ないはずなのに」

「残念。どちらも不正解」

「じゃ、どうやって？」

「知りたい？」

「当たり前だ」

「正解は今までの資産でした」

「今までって元々持っていたってこと？」

「そう言うこと。実はちょくちょくメダルゲームして溜まっていたんだよね」

「メダルゲーム初めてって嘘ってこと？　初めから持っているなんて不正じゃないか」

「メダルゲーム初心者っていうのは嘘でした。そこはごめんなさい。でも勝負は一時間以内でどちらが多くのメダルを所持しているかって言うルールでしょ。初めから持っている分はカウントしていないってルールじゃないからね」

「屁理屈じゃん」

「まぁ、まぁ。そんな怒らないでただの遊びだから」

「納得いかないな」

「なんでもお願いを聞くのは有効だからよろしくね」

「最初からそれが狙いか。何をお願いするつもりだよ」

「それはまだ先のお楽しみってことで」

　夜桜さんは意地悪そうに言う。

　イライラすると言うよりやられたと言った感じでこう言うノリも悪くない。

　友だちならではのノリというもので心地良いのは内緒の話。