第13話 限界まで食べよう
「ここって串カツ屋では?」
「まぁ、見たまんまだよね」
「いや、そうだけど、ここってどちらかといえば居酒屋って感じだよ? 高校生の俺たちが入っていい訳?」
店内からは学生やサラリーマンの会話が賑わす。
まさに大人が通い詰める場所としてあるような店だ。
そんな場所に俺たちのような高校生が入っていいのかと躊躇していた。
「何を心配しているの? 大丈夫だよ。全国展開しているチェーン店だし、最近ではファミリー向けのメニューも揃いに揃っている。勿論、お酒は飲まないし問題なし。ここなら安いし、平日の夕方なら更に安い。どうよ?」
「どうよって言われても……」
「さて。行きますか」
夜桜さんを先頭に俺たちは串カツ屋へ入店することに。
すぐに店員さんが来てくれてテーブル席へ案内される。
入店を断られると思ったが、あっさり入れてしまう。もし制服のままでは間違いなく入店拒否されていただろう。
個室ではないのが気になるが、こういう店はオープンフロアが特徴らしい。
「ここならまずクラスメイトと会うことないでしょ?」
「確かにそうだが、夜桜さんは入ったことあるの?」
「ない」
「ないのかよ」
「まぁ、こういうのも勉強のうちだよ。さぁ、飲み物だね。どれにする?」
メニューを開くと平日十七時から十八時の入店限定。ソフトドリンク付き一時間食べ放題と記載されていた。料金は千五百円。予算内には入っている。
そして、現在の時刻は十七時二十分。食べ放題の対象時間だ。
「メロンソーダで」
「じゃ、私はジンジャーエール。串カツはそれぞれ好きなもの頼もうか」
食べ放題メニューからそれぞれ注文する。
女子とは思えないくらい夜桜さんは序盤から一気に注文する。
本当に食べきれるのか不安になるくらいだ。
「さて。飲み物が来たところだし、まずは乾杯でもしましょうか」
「あぁ、乾杯!」
グラス同士を重ねてぐいっと煽る。
中身はただのジュースにしろ、喉を通り抜ける心地の良い冷たさが体内で刺激する。
普段の缶やペットボトルと比べて二倍、三倍増しくらい美味しく感じる。
「ぷはぁ。これだな!」
「いや、アルコール入っていないから」
「入ってなくてもこういうのは気分だよ。高嶺くん」
ほどよくして注文していた串カツが次々と運ばれてくる。
一気に二十本の串カツがテーブルの前に並べられた。
「……いただきます」
テーブルの横に備え付けられているソースを潜らせて一口。
サクサクの食感が口いっぱいに広がった。
「うまっ! 揚げたてってこんなに旨いんだ」
「これなら何十本もいけるね」
「あぁ、止まんないよ」
「高嶺くん! ちょい待ち!」
突如、夜桜さんは俺の行動を静止させた。
「な、なに?」
「今、何をしようとしていた?」
「何って串カツにソースを付けようと……」
「ソースの二度漬けは厳禁だよ」
「え? 何で?」
「もう。これだから居酒屋初心者は。いーい? 二度漬けはマナー違反だよ。生成的にも店側としても迷惑な行為なんだから」
「え? ソースって客ごとに変えるものじゃないの?」
「違うよ。次のお客さんも使うんだから。自分だけのソースじゃないんだからルールは守らないと。張り紙にも書いているでしょ。二度漬け厳禁って」
「た、確かに。夜桜さんに教えてもらわなかったらそのまま付けていたよ」
「どうしても二度漬けしたい場合はいい方法があるよ」
「……?」
夜桜さんはお通しで出されたキャベツを手に取り、スプーンのようにすくった。
それを串カツに継ぎ足すことで二度漬けを成立させる。
「これなら二度漬けにならない」
「おぉ、それいいね」
そこから無限に串カツを口へ頬張る。
串入れに串が収まらないくらい食べただろうか。
「高嶺くん。何本食べた?」
「えっと……二十五本」
「私、三十本。私の勝ち」
「いつから勝負していたんだよ」
「へへ。こういうのは何事にも勝負だよ。ちなみにドリンクの数は私が三杯。高嶺くんが五杯で私の負けです」
「そうですか。それにしても意外と食べるんだね。家に来た時も結構食べていたし」
「自分でお金払った分はしっかり食べるよ。勿論、遠慮する時はするし、今は遠慮する概念がないからさ」
「本気で食べたらもっと食べれたりする?」
「いや、さすがにもう限界だよ。これでも女子の胃袋だよ。これが限界さ」
女子の胃袋にしては平均以上食している気がする。
食べ放題の一時間を最大限まで堪能して会計も予算内の金額。
この夕食は不安なく満足のいくものだった。
「本当ならデザートを食べたいところだけど、居酒屋のデザートって甘みが足りないんだよね」
「まだ食べられるの?」
「デザートなら別腹かな。まぁ、これ以上は年頃の女の子としてはどうかと思うから控えるけどね」
夜桜さんは細くはないけど平均的な体型をしている。男子から見たら理想の体型とも言える。
時刻は十九時前。
本来であればまだゲームや漫画を見て過ごしている時間であるが、外だと何をすればいいのかさっぱり思い浮かばない。先のことを考えた時、どうしようと言う不安が募っていた。
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