第12話 徒歩で
夜桜さんと飲食店に向かう道中、横に並んで歩いているが、間に障害物があるみたいに少し距離があった。
友だちとしての距離感としてはこれくらいが丁度いいのかもしれない。
第一、夜桜さんの格好はパッと見て男みたいな見た目なので男同士でつるんでいるようにしか見えないだろう。
「そういえばさ……」と、不意に夜桜さんは声を掛けた。
「な、なに?」
「この間、栗見さんと鉢合わせした日のことなんだけど」
そういえば、その日のことに関してまだ何も言っていない。
「あぁ、ごめんね。遊びの邪魔しちゃったようで」
「いや、そうじゃなくて。あの後、栗見さんの機嫌はどうだった?」
「別に普通かな?」
「良かった。なんか機嫌悪そうに見えたから嫌な日になったんじゃないかって不安だったんだよね」
「いや、不機嫌になることはいつものことだよ。別に気にするほどでもないし」
「そうなんだ。いつも週末は二人でデートしているの?」
「デートに見えるか? 俺が葵の接待をしているだけだよ。それにいつもじゃない」
「へー。高嶺くんとしては接待している気持ちなんだ。栗見さん可哀想」
「今更デートって関係でもないよ。あいつとはただの幼馴染だし」
「でも向こうはそうとは思っていないんじゃないの?」
「確かにそれはそうかもだけど……」
「で、実際どうなの? 栗見さんのこと好き?」
「幼馴染として好きだよ」
「正直になれないんだね」
「何を言わせたいんだよ」
「まぁ、お似合いだなって思ってさ。で、その接待は楽しかった?」
「それが聞いてくれよ」
俺はあの日のことを夜桜さんに話した。
ボーリングが嫌だったこと。昼食に満足がいかなかったこと。音痴がカラオケに行ったこと。それに葵が仕組んだ嘘のシナリオ。俺は不満をぶち撒けるように言葉が止まらなかった。俺は誰かに喋りたかったのかもしれない。その相手がたまたま夜桜さんになってしまった。
夜桜さんが何も言わず、ただ俺だけが喋っていることに気がついてようやく口を閉じた。
「ごめん……。愚痴を言っちゃって」
「全然。なるほど。それは災難だったね。つまり栗見さんが提案したプランは全部空回りしていたってことか」
「あぁ、気を引こうと一生懸命なのは伝わるんだけど、ちょっと違うんだよな」
「でも一生懸命高嶺くんを喜ばせたいと考えてくれたんだよね? 部活まで休んで。それって凄い愛情だよ。そこまでしてくれる女の子って多分いないんじゃないかな? これは逃したら一生後悔する物件だね」
夜桜さんはやけに押してくる。
確かに高物件であることに変わりはないが、俺としてはもう少し満足のいくデートプランにしてほしいと心残りがある。今度遊ぶ時は俺がリードした方が楽しめるかもしれない。
「そういえば夜桜さんは朝比奈さんと夕野さんとはよく遊ぶの?」
「そうだね。よく遊ぶのはあの二人かな。でもあの二人と外で遊ぶと高確率でナンパされるから困るんだよね」
「そんな頻繁にされるの?」
「頻繁って訳じゃないけど、こういった繁華街を歩くと決まって声を掛けてくる男性はいるよ。そういう時は無視か断り続けるんだけどね」
「それは危ないな」
「可憐は奢りだったら行くこともあるけど、私は絶対に誘いに乗らない。だから毎回断るんだけど、これが続くと大変でさ」
夜桜さんからしたら困っているはずだが、俺からしたらモテる自慢をされているように見えてならない。モテることはモテない俺からしたら羨ましい限りだが、モテすぎるというのも大変のようだ。
「夜桜さんって男遊びとかしないんだね」
「しているように見える?」
「いえ、全く」
「私が男遊びする時はしっかり相手を選ぶよ。誰でもいいって訳じゃない。まぁ、可憐はどうだか分からないけどね」
「朝比奈さんはそういう遊びするの?」
「根は真面目なんだけど、私の知らないところでは何をしているか分からないよ。誘われたりすることもあるけど、絶対に行かない」
「そうなんだ」
女同士、表向きは仲良さそうに見えるのだが、夜桜さんの話を聞いていると裏では何が起こっているか分からないというのが正直なところだろう。
「いつも朝比奈さんや夕野さんとは何をして遊んでいるの?」
「んー。特に目的はないかな。買い物行ってオシャレなカフェとかでお茶してどうでもいいことをずっと喋っているだけ」
「意味もなく遊ぶって楽しい?」
「高嶺くん。それはぼっちの思考だよ。目的なんてなくてもただ一緒に遊ぶことに意味があるんだから」
確かに自分で言って悲しくなる。だから俺は友だちが出来ないのだろう。
まずは夜桜さんみたいに友だちという輪を作ることから必要になってくる。
こうして夜桜さんと関わりを持つようになって気付かされたが、俺の知らないような世界が夜桜さんを通して少しずつ世間を知れているような気がした。
今まではこうして繁華街を歩くことだってなかったかも知れない。
だが、夜桜さんと歩いたことで自分の知らなかった世界が知れた。そんな気がした。
「それにしても店の前での呼び込み多いね」
「この辺だと普通だよ。安いよとかサービスしますよとか客の呼び込みに必死。根の弱い人ならホイホイついて行っちゃうかもね。高嶺くんみたいに」
「俺のことそう見える?」
「店員からしたら分かるよ。通りかかった人を一瞬で見分けていけるって思ったら押し通す。断れない人だったらそのまま入店しちゃうかもね」
「へぇ。そうなんだ」
その時だ。
見た目が派手な男性が声をかける。
「お兄さん。良かったらうちの店でどうですか? ドリンク一杯サービスしますよ?」
「え? えっと……」
やばい本当に声を掛けられてしまった。
「あ、すみません。もう店決めてあるので結構です」
夜桜さんは小慣れたように誘いを断った。
「てな感じで断るんだよ。高嶺くん」
「夜桜さん。慣れていますね」
「あぁいうのはナンパと同じ。何回も断っていたら慣れっこだよ」
いや、そもそもナンパ慣れしているのは夜桜さんであって俺のような一般人は慣れることはまずない。その辺の違いを痛感させられた気がした。
「お、着いたよ。今日はここでご飯を食べようか」
立ち止まった先の看板を見て俺は呆然とする。
「ここって……」
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