第11話 外で遊びましょう
夜桜さんと遊ぶ時は俺の部屋で遊ぶことが定番になりつつ、自由な感じになっていたが、少し事情が変わった。
毎回自由に夜桜さんを呼べるのは両親が共に仕事でいない理由があるからだ。
母親は旅客事務員として週末に掛けて泊まり込みの勤務が多い。
父親は旅客のバス運転手な為、同じく泊まり込みだ。
つまり、平日が休みで週末が激務になりやすい働き方をしているので週末は一人で過ごすことが多いのが現状である。
だが、次の週末はたまたま二人とも家にいることが突如決まる。
誰もいないからこそ自由に夜桜さんを呼べたが、次の金曜日は呼べそうもない。
「そう言う訳だから来週は家に来るのはちょっと無理なんだ」
「そうなんだ。楽しみにしていたんだけどな」
残念そうに夜桜さんは呟く。
「でも再来週はまた呼べるからさ」
「そっか。でも、家に行けないだけで高嶺くんは空いているんじゃない?」
「まぁ、家族でどこか行くとしたら土日になると思うから金曜日は空いていると言えば空いているけど」
「じゃさ、たまには外で遊ぼうよ。ご飯も外で食べればいいし」
「そ、外?」
その発想は俺にはなかったが、その手もあったとつくづく思う。
そして次の週、毎週の恒例行事として俺と夜桜さんはいつも通り遊ぶことになった。
場所は外に移して。
「んー成り行きで誘いに乗ったけど、外で何をすればいいのやら」
放課後、一旦家に帰って私服に着替えた俺はこの辺で最も大きな繁華街のある駅前の改札口に一人佇んでいた。
週末の夕方と言うこともあり駅では混雑のピークを迎えていた。
帰宅のサラリーマンや学校帰りの学生、買い物中の主婦など様々な人で溢れている。
いつもはこのような人が多いところで来ることはない俺は新鮮な感じがしていた。
休みの日にゲームや漫画を買いに来るくらいで何ともないが、今は何故か人の目線が気になる。と言うより人が怖いとさえ感じる。
「居た! どこにいるかと思ったら普通に居たし。探す手間が省けたよ」
「俺が浮いているって言いたいのか? 夜桜さん」
「そう言っているんだけど?」
夜桜さんは意地悪そうに言う。
ふと、その姿を見ると私服に着替えた夜桜さんがそこに居た。
待ち合わせ時間より十五分前に来た俺だったが、五分前に夜桜さんは来ていた。
夜桜さんの私服を見るのはこれで二度目。一度目は偶然会ってしまったが、今回はお洒落と言うよりボーイッシュな見た目をしていた。
黒のキャップにワンサイズ大きめのブカブカパーカ。下はジーンズにランニングシューズ。
近くのコンビニに行くような格好と言える。
異性を意識した私服というより友だちに会うだけの服装と言ったところだろうか。
まぁ、俺はただの友だちなので気合の入った私服で来られても困るのだが。
「まずは……お腹空いたし、先にご飯でもどう?」
「そうだね。俺も丁度、腹が鳴っていたところで。えっと、どこに行こうか?」
「もう決めているよ。電話したけど、今はそんなに混んでいないみたい」
「予算は二千円しかないけど、足りるかな?」
「さぁ、そこは食べ盛りの君の胃袋次第だと思うよ」
「で、どこ?」
「黙ってついて来る」
「は、はい」
変に高い店だと困るが、一応多めに持って来ているから何とかなるだろうか。
それよりも夜桜さんに主導権を握られている気がする。
俺が考えるよりか決めてもらった方が楽でいいんけど。
それより気になるので聞かずにはいられない。
「夜桜さん」
「ん?」
「その服装なんだけど」
「服装?」
「こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、少し男っぽいよね。その服装」
「あぁ、それはそうでしょ。だってこれ兄貴の服だから」
「お兄さんの服?」
「もういらないって言われて貰ったんだけど、滅多に着ないよ。普段はこんな服装しないかな。こういう時だけ」
「こういう時?」
「一応、私たちって学校には内緒で遊んでいる友だちだし、目立たないようにしないと」
それもそうだと納得する。
待っている間に何人か同じ学校の生徒が通り過ぎたのを目撃していた。
学校帰りが多い金曜日の夕方は特に偶然誰かと会う確率は高くなる。
「それならわざわざこんな人通りが多いところで遊ばなくてもよかったんじゃ……」
「高嶺くんは分かっていないな。みんなにバレずにいかにコソコソ遊べるか。ゲーム感覚で楽しいじゃない」
「それでバレたら元も子もないと思うけど」
「大丈夫だよ。もしもの対策だって考えているから」
「まぁ、それならいいけど」
本当に考えているのだろうか。
夜桜さんって真面目に見えて実は好奇心旺盛だったのか。
「ささ、早く行こうよ」
いつにも増して夜桜さんの笑顔は優しく感じた。
リスクがあるとはいえ、こうして外で夜桜さんと遊べるのは確かに楽しい。
悪いことをしているようで少しハラハラするのがその証拠だろうか。
まるでいけないことをしているように。
とにかく今は夜桜さんとの時間を最大限まで楽しもうと心に決める。
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