第7話 罪悪感に耐えられず


 偶然とはいえ、人の告白を見てしまったことに罪悪感を感じていた。

その週の金曜日に俺は夜桜さんが家に来たタイミングで先日の告白を見てしまったことを謝ることにした。


「あぁ、そういうことか。重苦しい雰囲気で言うから何のことだろうって焦ったけど、そんなこと? 別に高嶺君が気にするようなことでもないよ」


 機嫌を悪くすると思われたが、本人は気にする様子は全くなかった。


「良かった」


「確かに誰かの気配を感じていたけど、まさか高嶺くんだったとはね」


「知っていたの?」


「なんか人の気配に敏感なんだよね。でも一人だけって言うより複数の気配を感じたのは気のせいかな?」


 夜桜さんの感覚は合っている。一緒に同席していた二人のことも話すべきだろうか。

 誤魔化すより言った方がいいだろう。


「実は……」とその時の出来事は包み隠さず夜桜さんに打ち明けた。


「そう言うことか。まぁ、そんなことだろうと思っていたよ。なんか妙にその日から二人ともソワソワしていたからなんだろうとは思っていたけど。全くあの二人は人の告白を面白がって」


「夜桜さんはそう言うのって嫌い?」


「私のことは別にいいんだけど、相手が可哀想だよ。せっかく勇気を出して告白してくれたのにそれを嘲笑うような態度は関心しないな」


「でも夜桜さんはその相手の男子は嫌いじゃなかったの?」


「まぁ、ちょっとタイプじゃなかったのもあるけど、しつこい感じで余計に軽蔑したのは事実。でも真剣に告白している事実を面白がっているのはちょっと嫌だな」


 夜桜さんは寂しそうにソッと言った。

 自分よりも相手を思いやれる心が優しさを感じた。

 夜桜さんはこう言う人だった。自分よりも相手のことを考えられる素晴らしい人。


「でも、可憐も咲歩も私のことは心配しているんだと思う」


「どうしてそう思うの?」


「二人は私の数少ない親友だから私と付き合う男はそれなりに心配なんだよ」


「夜桜さんはどう言う人と付き合いたいの?」


「今は考えていない。しばらくそういうのいいや。とりあえず今を楽しみたい。こうやって何でもない時間が一番楽しいんだ、私」


「それって……」


 俺といる時間が楽しいのか? と、捉えてもいいのだろうか。

 その返答次第で俺はどう反応をしたらいいのだろうか。


「私より可憐が不思議だよ。私よりモテるはずなのに未だに誰とも付き合っていないんだよ。相手なんて選び放題だと思うのに」


 それは夜桜さんも同じなのではないかと俺は思う。

 モテない男子代表の俺としてはその感覚はわざとではないにしても羨ましい限りだ。

 選ぶ相手すら難しい現状に候補がたくさんいるのは心に余裕がある証拠だ。

 夜桜さんとこのような会話ができるのは友だちだから言える関係。

 もし、何も関係ない者同士であれば少なからずこんな会話なんてできるはずもない。


「そうだ。この間やろうって言っていたゲームやろうよ。私、絶対に負けないんだから」


「ほぉ、俺に勝てると本気で思っているのか? ネットでは負けなしなんだぜ」


「それは少し甘く見過ぎるぞ。高嶺くん。私、この日の為に練習を重ねたんだから」


 格ゲーを二人で楽しむこの一時は大いに盛り上がりを見せていた。

 コントローラーから手が離れることなく、お互いに時間を忘れていた。

 勝敗の判定が出る表示出た瞬間、夜桜さんは大きく両手を上げて伸びをした。


「ダー! また負けた! 高嶺くん強すぎ!」


「夜桜さんもなかなか手強かったよ」


「何それ。勝者の余裕ってやつ?」


「いや、そんなつもりじゃ……」


「冗談だよ。ねぇ、どうやったらそんなに強くなれるか教えてよ」


「簡単なことから始めるとしたらコントローラーの操作だよ」


「コントローラー?」


「例えば連続技を決める時にこうやってボタンを連打するとクリティカルヒット」


 実演をしながら夜桜さんに操作テクを披露する。


「え? 高嶺くんの指先見えなかったんだけど」


「こういうのは慣れだよ」


「どうやるの?」


「ここをこうやって……」


 操作方法を教えている時、自然な流れで俺と夜桜さんの指が触れ合った。

 おまけに身体も触れ合っていたことで緊張が一気に高まった。


「あ、ごめん」


「いえ。全然問題ないよ」


 とは口では言っているが、夜桜さんは少し恥ずかしそうに赤めた顔を隠した。

 友だちとはいえ、こうして恥ずかしがる夜桜さんを見ると普通の女の子だと痛感する。

 その時だ。夜桜さんのスマホの着信が入る。


「やば。お母さんからだ」


 慌てて夜桜さんは通話ボタンを押す。


「もしもし。お母さん。どうしたの? え? 今? 友だちの家で遊んでいる。大丈夫だって。もうすぐ帰るから。もう、分かったから。うん。じゃあね」


 親の前で電話をする夜桜さんはいつもと違ってゆるく感じた。


「お母さん。なんだって?」


「いつまで遊んでいるんだ。早く帰ってこいだって」


 時刻を見ると二十一時を過ぎていた。娘を親に持つなら当然の心配だろう。


「ごめん。俺が時間を気にしていないばかりに」


「いや、高嶺くんのせいじゃないよ。この日に限って親は家にいるから心配になっただけだと思うからいつものことじゃないんだよね」


「普段、親は家にいないの?」


「お父さんは夜勤。お母さんは夜遅くまで仕事。だから金曜日は滅多に家にいないんだよね」


 俺と似た境遇である夜桜さんの家庭事情に親近感を覚えた。


「そういう訳だから今日のところは帰るね。楽しかった」


「あぁ、今日はありがとう。途中まで送るよ」


「いえいえ。お気になさらず。親が迎えに来るって聞かないから大丈夫。それに男の子と一緒だと変に心配するから。うちの親」


「そっか。気をつけて」


「うん。じゃ、また来週も遊ぼうね」


「勿論」


 イイ笑顔を見せた夜桜さんは颯爽と帰っていく。

 来週も二人で会える約束を取り入れた俺はニヤけていたかもしれない。

 この秘密の関係をいつまでも続けていきたいとつくづく思う。

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