第4話 教室内では


 金曜日の放課後だけ二人で遊ぶと言う友だち関係になった夜桜さんとは同じクラスの為、教室内では少なからず関わりがある。

 だが、お互いに親密な関係であることは出さずに一クラスメイトとして最低限な関わりを保っていた。


 夜桜さんは朝比奈さんと常に仲良さそうに喋ることが多く、俺はといえば葵以外とは極力喋ることはない。

 つまり、これがお互い普通の振る舞いである。

 実は仲良しというのは二人だけしか知らない内緒の関係だ。

 だから変に関わろうとせず、夜桜さんと口を効くことはないに等しい。


「優雅! この動画見てよ。超、面白いんだよ」


 意味もなく関わってくる葵の相手をするのは正直、面倒と思っていた。

 親が子供をあやす感覚と似ている。

 ドスッと葵は俺の膝の上に座りながら面白動画を見せつける。

 男の上に女が乗るという行為は恋人以上の関係でしか出来ない。

 しかもクラスメイトが見ている目の前で。


 普通ならば周りの目を気にするのであれば恥ずかしくてできない。

 だが、それは幼馴染という枠があるからこそ許される行為である。

 周りもその関係性を知っているので変に意識されないのが現状だ。


「葵。重いんだけど」


「嘘言わないでよ。私、超軽いんだけど」


「いや、そうだけど」


「何? 周りの目が恥かしいの?」


 葵はわざとやっているに違いない。

 周りに見せつけるようにしているのも勿論だが、誰も近づけさせない目的もあるのかもしれない。この状況であれば他人は声を掛けることすら躊躇してしまうだろう。まさに勝ち確ヒロインだからこそ許される行為である。

 同じ方向に座るならまだマシだが、これが向かい合わせなら度が過ぎる。


「葵、ちょっとトイレ行くから退いてくれ」


「すぐ戻って来てね」


「大きい方だからすぐは無理だ」


 葵を撒くにはトイレに行く他ない。

 ふと、教室の出口付近の席で雑談している夜桜さんの前を通り過ぎようとしたその時だ。

 目線は朝比奈さんに向けられているが、チラリと机の下に添えられている左手が気になった。

 不自然にピンっと伸びた手でピースを向けていた。

 明らかに俺に向けている。

 去り際にパチッとウインクをした。

 俺も何か見えないように合図を送ろうと軽く頷いて通り過ぎた。

 何でもないように舞いつつもしっかりと友だちとしての意識を思わせる瞬間であった。

 その後もお互いの私生活の邪魔をしないような学校生活を淡々と送った。

 俺はともかくとして夜桜さんの周りでは常に誰かが横にいた。

 一番多くいるのが朝比奈さんだが、それ以外にも男女問わず、声を掛けられることが多かった。夜桜さんは間違いなく人気者でクラスの中心にいる存在である。

 一見、縁がない俺が実は友だちでいることに自分でも驚きを感じるほどだ。


「ねぇ、優雅。私たちってどんな関係かな?」


 不意に葵は質問を投げかける。


「幼馴染だろ? それがどうした」


「もう、優雅の意地悪」


「お前は何を言わせたいんだ」


「ねぇ、朝比奈さんが洋風で夜桜さんが和風って考えた時に私ってどうなのかなって思う訳よ」


「何故、その二人が出てくるんだよ」


「だってクラスで人気者のツートップじゃない。いやでも目に入るよ」


「まぁ、確かにそうだな」


「そこで私がその二人に並んだ時、どう見えると思う?」


「どうと言われても……」


 考えてみると葵とは不釣り合いにしか見えない。

 まず、低身長の葵と二人を並べたら頭一つ低いので目立たない。

 それに葵は洋風とも和風とも違う。言ってしまえば中風だ。


「今、悪口が頭の中で過ぎったでしょう?」と葵は見透かしたような発言をした。


「いや、別にそんなことはないけど」


「ちなみに優雅は二人のうちどっちがタイプ?」


「何でそんなこと聞くんだよ」


「いいから答えて」


「じゃ、朝比奈さんで」


「ほう、やっぱり一番人気の朝比奈さんなんだ」


 まぁ、本当は夜桜さんだが、葵の前では朝比奈さんということにしておこう。変に夜桜さんに敵対心を抱かれても困る訳だ。

 その時は特に意味もない質問に思われたが、翌日になってその真相を知ることになる。


「お前、何だよ。それ」


「どう? 似合う?」


 葵は何と慣れない化粧やマニキュア、それにピアスまで付けている。

 一気に洋風と言える見た目に変身してしまった。

 だが、無理やり感が強く不自然な見た目が鼻についた。


「耳に穴を開けるのは怖かったので挟むタイプのピアスにしてみました。可愛い?」


「来い。全部落としてやる。何もかも全てな」


「何でよ。せっかく優雅の好みに合わせたのに取ったら意味ないじゃないの」


「お前、まさか昨日朝比奈さんが良いって言ったからそんな見た目に変えたのか」


「だって優雅はそういうのが良いんでしょ?」


「馬鹿野郎。俺はそのままの葵で充分なんだよ。変に飾り付けしなくても良いんだ」


「そのままの私が好きってこと?」


「あぁ。何もせずそのままでいい」


「本当? なら、化粧とか落としてくるね」


 葵は嬉しそうにトイレへと向かった。

 何がそんなに嬉しいのだろうか。葵がギャルのような見た目になったら怖いだけだ。

 葵は自己主張が強い反面、俺の言ったことを何でも受け入れてしまう素直さがあるのもまた事実だ。ちょっと可愛く見える時もどうしてもあるが、葵はやはり幼馴染に過ぎないのもまた事実。それは異性としてというより妹に近い感情と言える。


「葵はともかくとしてクラスのマドンナとはどうやって付き合えるものなのだろうか」


 そんな疑問を朝比奈さんに向けて呟く自分がいた。

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