第3話 内緒の交友関係
アニメであったり漫画であったりゲームであったり共通点が多いことが挙げられる。
ただ、これは二人だけの秘密。俺と夜桜さんの交友関係はクラスメイトには内緒という取り決めをした。特に葵の耳には入れたくない。
意外なことに秘密を提案したのは夜桜さんからだ。
「私、周りでは真面目なイメージあるじゃない? だから二次元の趣味があるって周りに知られたくないの。でも高嶺君とは趣味が合いそうだし、友だちとして接する時は内緒にしたいかな」
「分かった。俺たちの関係は二人だけの内緒だ」
これは俺にとっても好都合だった。
もし、葵の耳に夜桜さんと交友関係があると知られたら何が何でも切り離そうとする。
せっかく出来た初めての友だちを幼馴染の手によって失いたくない。
浮気を隠すような形に見えるが、そんな重たいものでもない。
ただ、俺は純粋に夜桜さんとは楽しく笑い合えたらそれでいい。
それと夜桜さんとは金曜日の放課後に俺の家で遊ぶ取り決めが決まっていた。
何故、金曜日かと言えば週末でお互い都合がいいからだ。
親は帰りが遅く夕飯はお金だけ置かれており、それで自由に食べていいことになっている。
大体、千円かよくて二千円が置かれている。残りは小遣いとして貰えるわけだ。
一番俺にとって自由な時間帯であり、それを夜桜さんに話したら家に行ってもいいかと問われたのでそのまま了承した。
「ここが高嶺くんの部屋か。随分、小綺麗にしているんだね」
「まぁ、女の子が来るから」
「葵ちゃんも来ることあるんでしょ?」
「まぁ、あるけどあいつは気を使うような相手じゃないよ」
「それはそれでどうかと思うけど。それにしても本がいっぱいだ。適当に読んでいい?」
「ご自由にどうぞ」
「どれにしようかな」
今、葵以外の女の子が普通に俺の部屋にいる。
なんだが新鮮な気がするが、友だちといえど、異性の部屋にこうもあっさり入るなんていいのだろうか。意識するな。夜桜さんは俺を信頼しているんだ。本人はそんなつもりじゃないのだ。
「わぁ、懐かしい。この漫画、私好きなんだよね」
夜桜さんが手に取ったのは昔、流行っていた王道バトル漫画だ。
絵は子供向けだが、名言や泣ける展開が多く魔物と人間の絆がある話だ。
「へぇ。夜桜さん。読んだことあるんだ」
「うん。アニメを見てハマって漫画喫茶で一気見しちゃった」
「じゃ、好きなキャラクターって……」
そこから話の盛り上がりは凄かった。
趣味が合う者同士、こんなに語り合えるとは思えなかった。
周りの目がない分、好きなことで話は止まらず気付けば時間を忘れていた。
放課後からそのまま俺の家に直行して十九時を過ぎた辺りである。
「お腹空いてきたね」
夜桜さんから一言飛び交う。
この流れはそろそろ帰るねって言う流れだろうか。少し寂しい気もするが、留めるのも悪い。
ここはしっかりと見送らなければならない。
「高嶺くん、夕飯はどうするの?」
「えっと、適当に出前でも取ろうかなって」
「自炊しないの?」
「親からお金だけ渡されているんだ。勝手に冷蔵庫の中の物を使うと献立が狂うって怒られるから」
「そうなんだ。私の分も出前とってくれる? お金出すし」
「え?」
「ダメ?」
「いや、構わないよ。てっきり帰るのかと思ったから」
「まだ大丈夫でしょ。もう少しこの漫画見たいし」
「漫画だったらいくらでも貸すのに」
「高嶺くんの意見も聞きたいから」
「そ、そっか。じゃ、何頼む?」
「ピザ!」
「了解」
Lサイズのピザを頼み、二人で割った。
コーラで流し込みながら食べるピザはとてつもなく美味しく感じた。
辺りはすっかり暗くなり、時刻は二十二時を回っていた。
まさかこのまま泊まっていくのではないかと不安と期待が交差する中で夜桜さんは言う。
「わぁ、もうこんな時間か。楽し過ぎて時間を忘れていたよ」
「そ、そうだね」
「じゃ、私、そろそろ帰るね」
ですよね、と俺は複雑な心境が流れた。
「明日は早いから早く帰って寝ないと」
「明日、何かあるの?」
「週末は洗濯や掃除などの家事は私がすることになっているの。そのあとは可憐と遊ぶ約束していてそのあとは夜までバイト。週末はそんな感じで終わっちゃうな」
俺より充実している。俺は一日何も予定がなくただ無駄に過ごして終わるだけだ。
まぁ、夜桜さんは俺と違って交友関係広そうだから忙しいのは無理もない。
「高嶺くんの週末は?」
「俺は特に何かあるわけではないよ。今日みたいにダラダラ過ごすだけ」
「そっか。それもそれで忙しいよね」
そうでもないけどな、と思ったが否定する気にはなれなかった。
おそらく予定がない俺に対して夜桜さん的に気を遣ってくれたに違いないからだ。
「今日はありがとう。また来週もよろしく」
「あ、送るよ。外暗いし、女の子一人じゃ危ないと思うし」
「ありがとう。でも平気。親が仕事終わってすぐそこまで迎えにきてくれているみたいだから」
「そっか。せめて玄関先まで」
「うん」
夜桜さんの鞄を持ってあげて玄関先まで送る。
笑顔で手を振る夜桜さんに癒されながら俺は見えなくなるまで見届けた。
見送りが済み、夜桜さんが帰った瞬間、ポッカリと胸が大きく開いた感じがした。
楽しい時間が終わった時の虚しさが込み上げる感覚だ。
でも、また来週も来てくれるって言っていたし、一週間それまで気ままに待てばいい。
ただ、この後の週末の過ごし方といえば、ずっと家に閉じこもり何もしていないに等しいものであったことに変わりない。
初めての友だち、夜桜さんの存在は大きく見えた。
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