第1話 幼馴染の言動
ラブコメには主人公の選択肢となり得るヒロインが数々登場をする。
しかし、その中でも絶対に選択肢に入らないヒロインの存在も一定数いることも事実だ。
俺はそんな勝ちヒロインよりもいわゆる負けヒロインが毎回気になって仕方がない。
勝ちヒロインとはどういうものかと言えば、その物語の主軸になるヒロインのことでクラスのマドンナや幼馴染の存在が強い。
言うなればお約束のヒロインと言える。
そんな当たり前のように用意されたヒロインよりもいわゆる負けヒロインに魅力を感じる俺は変だろうか。
選択肢から外れるということは魅力がないというよりメインヒロインが強すぎることが挙げられる。
本来であれば選択肢に入っていてもおかしくないが、負けヒロインだけに印象が薄れてしまうことは致し方がない。
あくまでもメインヒロインと比べると負けるが、そんな負けヒロインを俺は救ってやりたいとさえ思えてしまう。
そんな俺の横には既に勝ちヒロインのポジションとも言える幼馴染の存在がいた。
高校へ進学しても葵とは一緒であり、必ず隣にいる。
まさに思い描いたような勝ちヒロインと言えるだろう。
幼馴染という絶対的な信頼が厚いだけに存在感を放っている。
まるでガードマンのように悪い虫が付かないか常に張り付いている。
悪い虫というのはつまり新たなヒロインと関わりを持たせようとさせない。
幼馴染こと
あの手この手と自分の気を引きつつ、外部に目を向けさせないように気を張っている。
そんなことと裏腹に俺の周りには不意にラブコメは始まっていく。
「やばい。やばい。このままじゃ遅刻しちゃうよ!」
住宅地の角から食パンを加えた美少女が俺の前に飛び込んでくる。
ラブコメ展開としてはかなり古い設定だが、しっかりと俺のラブコメ主人公補正が乗ったビックイベントだ。
ラブコメを読み尽くした俺の見解としてはここで美少女とぶつかることで後々どこかで再会して「あの時の!」と美少女と接点を持つ展開だ。目に見えた美味しい展開。
さて、ここはわざとぶつかりにいきましょうか。
肩を美少女に突き出したその時だ。
「あ、優雅。危ないよ」
グッと葵は俺の腕を引っ張り、美少女とぶつからずに通り過ぎた。
約束された展開をまたしても阻止された。
「何をするんだよ」
「怪我を未然に防いだのになんで怒るのさ」
「いや、別に」
「もしかして美少女とぶつかって再会してうふふ展開でも想像した?」
「ばっ。なんだよ。うふふ展開って」
「別に。早く学校行こう」
こう言った感じで葵は何かと俺の周りで起こるラブコメ展開を強制的に奪ってしまう訳だ。
俺の体質は間違いなくラブコメ主人公の補正が乗っている。
今だって葵の邪魔が入らなければラブコメ展開は加速するに違いない。
それなのに幼馴染が打ち消してしまう。
だが、その程度の妨害で俺のラブコメは終わらない。
学校に行けば同じクラスで可愛い子はいくらでもいる。
その点、俺はまだ恵まれている。
まず、目に引くのはクラスで一番可愛いと評判の女の子。
付き合うためにはどんな手を使ってでも彼女にしたいと思う男子は大勢いることだろう。
そしてクラスで二番目に可愛いと評判の女の子。
朝比奈可憐が洋風であれば逆に夜桜十六夜は和風。
この二人は見た目も性格も正反対なことからどっち派? としてよく比較される存在だ。
更にこの二人はよく一緒に行動していることから良き友人関係である。
タイプが違う二人が何故仲良しなのか不思議ではあるが、どこか波長が合うのかもしれない。
外野から見るとずっと見ていたいほど二人は輝いて見える。
このツートップヒロインたちを前に既にラブコメとしての舞台は用意されている。
……訳だが、葵の存在がそのラブコメ展開を阻止されてしまう展開が目に見えている。
葵も俺と同じクラスであり、おまけに席は俺の後ろだ。
ここまでベッタリな幼馴染は他にいないのではないか。
「なぁ、葵。お前さぁ」
「何?」
「俺の隣ばかりじゃなくて他の友達のところに行っても良いんだぞ?」
「別に私の勝手じゃない。何? 私が優雅の傍にいることが迷惑だって言いたいの?」
「いや、そういう訳じゃないが」
「優雅が一人でいるとぼっちに見えるからあえて私が隣にいるんだよ? むしろ感謝してもらいたいくらいだわ」
胸を張って言う葵は自信に満ち溢れていた。
それに関しては大きなお世話なのだが、否定して泣かれても困る。
ここは気分を良くさせるのが得策か。
「はいはい。感謝していますとも。幼馴染の栗見葵さん」
「よろしい。君はずっと私に感謝して生きていくんだよ」
こいつは何を言っているんだが。
まぁ、悪い気はしないが、これが勝ち確の余裕というやつなのだろうか。
確かにこのまま二十代、三十代と葵と行動を共にすればいずれ結婚するのは時間の問題だ。
敷かれたレールにそのまま進むだけの人生で俺は良いのだろうか。
不意に俺はクラスにいるカップルに目を向けていた。
教室という狭い空間の中でイチャイチャするその姿を見せびらかしているようで目に余るが、当の本人は周りの目より自分たちの世界に浸っている様子だった。
童貞で彼女も居ない俺からしたら羨ましいとさえ感じさせられる。
「カップルか」
「さっきから何をニヤニヤしているの? 気持ち悪い」
口は悪いのが目立つが、葵の容姿はよく見れば可愛い。
低身長で胸は少し乏しいが、それに眼を瞑れば可愛いんじゃないか。
顔は幼さが残る童顔だが、可愛いし、栗色のパーマが引き立てている。
性格は明るいし、話も面白い。何より一緒に居て楽だ。
このような好条件の女の子はそういないだろう。
他人から告白されているのを見る限り、こいつはモテる。
ただ、俺が好き過ぎるあまり、全て断っていると聞く。
この際、一度お互いに誰か別の人と真剣に付き合うことありなのではないか。
そう、俺は感じた。
「なぁ、葵。この際だから言うが、俺にこだわる必要はないと思うぞ」
「どう言う意味?」
「いや、つまりだな。自分の気持ちに正直になって他の誰かと付き合ってみたり、遊んでみる経験もありだと思う」
「私のこと嫌い?」
「いや、そう言う意味じゃなくて。俺のせいでお前が他の誰かと遊べてなかったら申し訳ないと思ってだな」
「私、優雅以外の人には興味ないし。それに私は誰とでも遊べる軽い女じゃありません」
「……俺以外に好きな人いないのかよ」
「いるよ」
「いるのかよ!」
思わず、俺は大声で反応してしまう。
一瞬の注目で俺は身を縮めてしまった。
耳打ちをして俺は葵に問う。
「誰だよ。その好きな人って」
「教えない」
「お前、幼馴染との間で秘密はなしだ」
「誰がそんなこと決めたのかな?」
「ぐっ。こいつ」
この憎たらしさがどうも気に食わない。
だが、好きな人がいるなら話は早い。そいつと葵をくっ付けてしまえば俺に舞い込むラブコメは阻止されずに済む。
絶対に葵に彼氏を作らせてやる。
葵が好きな人って誰だろうか。そもそも葵は男に興味がある素振りは見せない。
芸能人か、アニメの人物か、そういう類の人物ならどうにもならないが、身近な人物であれば可能性はある。
「大丈夫。私の心は優雅一筋。簡単に心変わりしないから安心してよね」
ドヤ顔で葵は言い放つ。
それはそれで複雑だが、例え好きな人がいたとしても心までは俺以外に向かないと言う訳だろう。幼馴染には困ったものである。
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