勝確の幼馴染がラブコメ展開を全力で阻止する件〜その一方で負けヒロインと仲良くなってしまう〜

タキテル

プロローグ

 

 俺、高嶺優雅たかみねゆうがには友だちと言える存在がいない。

 そもそも友だちの定義とはなんだろうか。

 校内で昼食を食べたり、休み時間に喋ったりする程度は友だちというより『顔見知り』と言った方が自然だ。要は学校や会社のような組織内で交流する程度では友だちとは言えず、プライベートで遊ぶ関係が友だちと言えるのではないだろうか。


 そんな友だちと呼べるものは俺の中にはいない。

 学校では一人が多く休日は家でゲームや漫画を読んで過ごすことが多い。

 友だちや恋愛に疎い俺は現実世界よりラノベや漫画の世界に逃げていた。

 現実ではありもしない展開が当たり前のように用意された主人公が羨ましいとさえ思う。


 俺もラブコメの主人公になれれば可愛い女の子とハラハラドキドキが出来るかもしれない。

 ラブコメが好きな俺はいつしかラブコメの主人公になりたいと思っていた。

 だが、現実はそう甘くない。それは自分がよく分かっていること。

 そんな俺にもラブコメらしい要素が一つだけ用意されていた。

 そう、それが幼馴染である栗見葵くりみあおいの存在だ。

 一人で過ごすことが多いと言ったが、栗見葵に関しては別だ。

 こいつとは磁石でくっついたように近い存在である。

 同い年の幼馴染の存在がいるだけで恵まれていると言えばその通りなのだが、それもそれで困った要因とも言える。


 葵とは生まれた時からの幼馴染であり、家族同士親密な関係である。

 だが、葵は何かと俺の行動に反応して邪魔ばかりする困った要因がある。

 分かりやすく過去の事例を紹介しよう。

 小学生の時にあった話だ。


「あの、私……高嶺君のこと好きです。その……お友だちからで良いので仲良くしてくれませんか?」


 好きな女の子から告白されていた。

 それは唐突で不意打ちのようなものである。

 思ってもみない展開に俺は気が動転していた。

 俺にもラブコメ主人公のような体質があったことを実感した瞬間でもある。

 勿論、このチャンスを掴むため、了承しようとしたその時だ。


「あれ? もしかして優雅のこと好きだったの? やめといた方がいいよ。こいつ部屋汚いし、家では超わがままなんだよ。他にもやばいことがいっぱいあってね……」


 突如、葵はニヤニヤしながら割り込んできた。

 女の子の注目は葵に向けられる。


「え? そうなの?」


「いや、違うんだ」


「オマケに食べ方も汚いから仲良くなるのは損だよ。損。マジで見るに堪えない。やめといた方が賢い判断だと私は思うよ」


 止めを刺すように葵は言う。全力で否定する葵に俺は血の気が引いた。

 葵の止まらない発言を止めようと口を塞いだ。


「ばっか。葵! 何を言っているんだ。あの、違うんだ。こいつ出まかせばかりで全然そんなんじゃなくて……」


「高嶺君。ごめん。さっきの告白はなかったことにしてもらえるかな? それじゃ!」


 女の子は軽蔑するように走っていく。

 俺は手を伸ばすだけで追いかけることができなかった。

 最大のチャンスを失った。


「あーあ。女の子を泣かせちゃったね」


「誰のせいだ。葵! なんてことを言うんだよ。せっかく良い感じだったのに」


「えぇ? 別に本当のことじゃない? いいじゃない。先に嫌なところを教えた方が後々楽だから」

「後々ももうないだろうが」


「あ、そっか。ドンマイ」


 葵は悪びれる様子もなく笑っていた。

 本人には全く悪気はないらしい。正直と言うよりかなりお節介だ。

 こんな感じで俺に寄ってくる女子は葵の一言で追い払われてしまう。

 以上のことから俺にはラブコメ展開は訪れない。そう、実感せざるを得なかった。


 ★★★


 栗見葵とは切っても切れない関係である。

 家が隣同士で家族ぐるみで付き合いがあることから自然と幼馴染となり、常に一緒にいる仲である。

 友だちがいない俺として唯一、傍にいるのが葵だけだった。

 つまり葵が全て……というわけでもないが、そう思いざるを得ない理由がある。


「ねぇ。優雅。将来、私と結婚するよね?」


「えぇ? 結婚? 僕たちまだ五歳だよ?」


「分かっているよ。だから約束して。ね?」


「う、うん」


 葵の強引さで幼少期の俺は強制的に結婚の約束をさせられた。

 まぁ、子供の時の約束なんて可愛いものだ。

 その場のノリというやつに過ぎない。

 高校生になった今となってもそれを本気にしているかどうか定かではないが、俺は本気にはしていない。

 だって勝ちが確定している恋なんてつまらないじゃないか。

 葵は確かに可愛いが、このままの流れで大丈夫だろうかと不安が残ってしまう。

 俺は新しい恋を見つけたい。いや、その前に友だちを作ることが先かもしれない。

 だが、どういう訳か俺が恋人も友だちもできないのは俺が原因という訳でもないらしい。

 少し前までは俺が口下手で交友関係が上手くいかないと思っていたが、実際は違った。

 原因は簡単だ。幼馴染である栗見葵に原因がある。

 どういう訳か、葵は俺の見えないところでことごとく俺と関わりを持とうとする人物を阻止するのだ。何故、そのようなことをするのかと言えば自分を勝ち確のまま物語を終えたい。そういう意図があるのだろう。実際に聞いたわけではないが、葵は俺の知らないところで糸を引いているのは間違いない。

 幼馴染という有難い存在に変わりないが、そのようなことをされると俺は新たなラブコメが生まれない。

 俺の願望としてはラブコメのような甘い恋をしたい。ただそれだけだ。

 だが、幾度となく葵は阻止を繰り返す。

 まるで自分以外のヒロインの存在を敵としてみているのではないだろうか。

 おそらく幼馴染がいることで俺のラブコメは一生始まらない。

 そんな気がしてならない。

 これは勝ちが確定した幼馴染からラブコメ展開の阻止を交わしつつ、ラブコメをする話である。



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