第32話 【ブラジル版トイレの花子さん】ロイラ・ド・バニェイロ(A Loira do Banheiro)

 ロイラ・ド・バニェイロは直訳すると、「トイレのロイラ」という意味で、ロイラとは女の子の名前である。ロイラという名は、ブラジルでは金髪の白人女性にありふれた名前とされている。日本でいえば黒髪の女の子の代名詞的な名前で「花子」というようなものである。さしずめブラジル版「トイレの花子さん」といったところだろうか。


 さて、ロイラ・ド・バニェイロは、文字どおりトイレに現れる。特に女の子が1人でトイレに行った場合に、現れる確率が高くなるという。彼女は、口と鼻に脱脂綿だっしめんを入れていて、白い服を着た顔色の悪い姿で現れるという。死者の口や鼻には体液が出ないように脱脂綿だっしめんが詰められて葬儀が行われるものだから、彼女はきちんと葬られた死体だと分かる。その一方で、何の無念があるのか、成仏できずに化けて出てくる。


 ロイラ・ド・バニェイロの話は、1980年代半ば頃からサンパウロの学校で広まったといわれている。ロイラに会うためには、まず彼女に電話をし、「ロイラ1、ロイラ2、ロイラ3!」と彼女の名前を3回連呼しなければならない。トイレの一番奥の個室に入り、トイレの水を3回流すことで彼女が現れるという者もいる。


 上記のように彼女を呼び出す儀式を終えると、彼女はトイレの手洗い場に設置された鏡の中に現れる。その姿を覗き込んだ者は、彼女に連れ去られてしまうという。


 彼女は、別名でムリェー・アウゴダオン (Mulher-Algodão) 、即ち「綿めんの娘」ともいわれるそうだが、それは彼女の口と鼻に脱脂綿だっしめんが入っているからであろう。


 まさに日本のトイレの花子さんのようでもあるが、アメリカのブラッディーマリー (Bloody Mary) のようでもある。ブラッディーマリーは、彼女の名を13回連呼(一説では3回連呼)すると、血まみれの姿でトイレの鏡の中に現れるという女の子の幽霊で、1970年代半ば頃から北米で伝わっている。スウェーデンではサラ・ブレイター (Sarah Breiter) という女の子の幽霊がいて、やはりトイレの鏡の中に現れたそうだから、世界中を探せばトイレに現れる女の子の幽霊は多いようである。


 このような話を日本では都市伝説という。そしてブラジルでは「レンダ・ウルバーナ (Lenda Urbana) 」という。Lenda は伝説、 Urbana は都市を意味している。

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