第11話 【子どもをさらうヤギ】カブラ・カブリオーラ(A Cabra Cabriola)

 カブラ・カブリオーラはヤギの姿をした妖怪で、巨大な口と、鋭い歯を持つ。そして声は低く、目と鼻と口から火を吹くのだという。この妖怪は、子どもを捕らえて食べるのが好きで、子どもを詰めるために大きな袋を担いでいるそうだ。つまり、西洋のブギーマンのような人さらい妖怪なのだろう。


 カブラ・カブリオーラは非常にずる賢い。子どもを捕らえて食べるために人の声を模倣もほうして子どもをあざむく。おそらくは、家で留守番をしている子供に扉を開けさせるため、「ママだよ。ドアを開けて……」などと言うのだろう。しかしながら、この妖怪の能力は声帯模写せいたいもしゃだけで、人間に化ける能力はない。そのため、落ち着いて用心深くすれば、だまされずに済む。また、この妖怪は臆病おくびょうな性格である。さらおうとした子どもが大声で泣くと、あわてて逃げるといわれている。


 カブラ・カブリオーラは、大抵金曜日の夜に現れて、歌を歌いながら子どもを探す。その歌は次のようであるという。


「わたしはカブラ・カブリオーラ。男の子を捕まえて食べちゃうぞ。嘘じゃないよ♪」


 子どもが泣き叫んだら逃げ出すほどに臆病おくびょうな性格でありながら、犯行予告を歌にするとは奇妙な妖怪である。人間であれば、とんでもないサイコパスだ。


 さて、このカブラ・カブリオーラは、ポルトガルからの入植者にゅうしょくしゃとともにブラジルへやって来た妖怪であり、ピアウイ州、ペルナンブーコ州、アラゴアス州、セルジッペ (Sergipe) 州とバイーア (Bahia) 州に出没する。妖怪も移民であるとはブラジルらしい話である。


 ところで、ブラジルにはオーメン・ド・サク (Homen do Saco :直訳すると「袋男」の意) あるいはビーショ・パパゥン (Bicho Papão :直訳すると「子取りのけもの」の意) という子どもをさらう妖怪もいる。これらは麦わら帽子を被っていて、袋を担いでいるという。カブラ・カブリオーラもそうだが、人さらい妖怪の特徴は、どうやら袋を担いでいることらしい。


 ブラジルの隣国アルゼンチンやパラグアイでは、ポンベロ (Pombero) と呼ばれる人さらい妖怪がいるそうだ。「夜になるとお化けが来て、子どもをさらって食べるから、早く家へ帰っておいで」と子どもに言って聞かせる母の思いから生まれた妖怪たちなのであろうか。

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