第5話 【スケベなカワイルカ】ボトゥ(O Boto)

 ボトゥは、アマゾン川にんでいて、昼間はピンク色のカワイルカの姿をしているが、夕暮れ時に美しい人間の男性に変身する。ボトゥが人間の姿でいられるのは夜明けまでで、朝には川に帰り、イルカに戻る。

 ボトゥは女好きな妖怪で、夜な夜な人間の女性を誘惑ゆうわくする。ボトゥに魅了みりょうされた女性は、必ず妊娠にんしんするそうだ。ボトゥは父親としての責任を果たさないので、生まれてくる子どもには父がいないことになる。それゆえブラジルでは、父親がいない子のことを揶揄やゆして「ボトゥの子」と呼ぶことがある。また、ボトゥは、パーティに現れて女性をナンパするといわれている。若く美しく社交的な色男が会場に現れたら、それはボトゥかも知れない。そんなときは、彼が帽子を被っているかどうかに注目するとよい。ボトゥの正体はカワイルカなので、頭には噴気孔ふんきこうがある。帽子で噴気孔ふんきこうを隠していないか調べてみるとよいというわけだ。

 さて、女たらしなボトゥが気に入らないという人のために、この妖怪が現れないようにする方法がある。ボトゥがカワイルカの姿をしている昼間のうちに、つぶしたニンニクを川へ投げ込むのだ。するとニンニクを嫌うボトゥは、川の深くに逃げ去り、その日は陸に上がってこないのだという。

 ところで、筆者が出会ったブラジル人の中に、尻の左右にそれぞれ1頭ずつのイルカの刺青いれずみをしているという男がいた。彼は女好きであったのだが、なるほど、イルカは色男を象徴する動物として認知にんちされているのだなと思ったものである。

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