第6話 【叫ぶ死者】ブラダドール(O Bradador)

 ブラダドールとは「さけぶ人」という意味がある。サンタ・カタリナ州、サンパウロ州、ミナス・ジェライス州そしてパラナ (Paraná) 州にんでいる妖怪である。この妖怪は、金曜日の深夜0時を過ぎると現れ、激しいさけび声を上げながら外を走り回る。その声は聞く者に戦慄せんりつを与え、恐怖させる。そして、この妖怪は、ミイラのように乾燥した体を持っている生きるしかばねであるという。

 ブラダドールが何を叫んでいるのか、なぜさけび続けるのか分からないが、ミイラの姿をしていることからさっするに、きっと死んでも死に切れなかった死者の遺恨いこんや無念をさけんでいるのだろう。

 ところで、さけぶ死者といえば、ペルナンブーコ (Pernambuco) 州のサンフランシスコ谷 (Vale do São Francisco) に、グリタドール (Gritador) という化け物が現れるそうだ。グリタドールとは「わめく人」という意味である。そして、この妖怪には次のような言い伝えが残されている。


 あるところに素行そこうの悪い若者が住んでいた。彼は飼っていた馬を虐待ぎゃくたいし、十分な世話をしなかった。そこで彼の母親は、可愛そうな動物を逃がしてあげた。すると若者は、激しく母をののしり、暴力を振るった。追い詰められた母は、息子に呪いをかけた。

「息子に永遠の苦しみを。死後、魂は決して天国に行けず、この世に、永遠に彷徨さまよわせたまえ」と。

 そして、息子はグリタドールとなって、永遠に叫び続けるようになったという。

こくじ

 ブラダドールとグリタドールの起源は、もしかしたらポルトガルのゾハ・ベハデイラ (Zorra Berradeira) であるかもしれない。ゾハ・ベハデイラは「混乱して泣きさけぶ人」という意味がある。ヤギの姿をした怪物で、怒りや絶望のために、さけび続けながら深夜に徘徊はいかいするという。姿に差異さいがあるものの、それぞれの名前の意味と行動が酷似こくじしている。

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