第5話

「では、アイマスクとイヤフォンを外してください」

 黒田は、幸村に言われた通り、アイマスクとイヤフォンを外した。

 外すと、椅子とテーブルがあり、12畳程の広さの窓のない部屋に居た。

「お座りになって少々お待ち下さい」


 時計がないので分からないが、体感的には15分程して、幸村がカートに料理を乗せて戻って来た。

 待ちに待った料理。黒田は思わず舌舐りしていた。

 ポットカバーのされたトレイが目の前のテーブルに置かれた。

 ポットカバーが外された。するとそこには、牛丼と味噌汁があった。

「これが、最高の料理?」

 黒田は落胆していた。贅沢な料理を想像していたのだ。

「食べてみれば分かります」

 黒田は騙されと思いながらも、箸で牛丼を一口分口に運んだ。

 するとどうだろうか、今まで食べたことのない旨味が口一杯に広がった。

「う、旨い。これが最高料理なのか?」

 疑問を浮かべなからも、箸が止まらない。あっという間に黒田は牛丼を平らげ、味噌汁に手を伸ばす。

 出汁が効いた豆腐とワカメだけのシンプルな具材だか、旨味を最大限に引き出した優しい味わいの味噌汁だった。

 こちらもあっという間に飲み干してしまう。

「旨い!旨すぎる!」

「それは、光栄でございます。次の料理をお持ちします」

 言って幸村は、2つカートを引っ提げて戻って来た。

 黒田の心が弾む。

 テーブルに置かれる前に、小さい方のポットカバーが開けられた。

 そこには、ウインナーのようなものが置かれていた。

「これは?」

「あなたが食べたものの一部ですよ」

 そう幸村に言われたが、黒田には、何なのか分からなかった。

「では、こちらを見ればお分かりになりますかね?」

 もう一つのポットカバーが開かれた。

 渋谷の生首があった。

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