強引

午前8時 霧嶋家

「おはよう、尋也。」

 目を開けると、霧嶋さんが優しく頭を撫で起こしてくれた。昨日は一日で色々なことがった、というよりあり過ぎた。でも、昨日のことは忘れよう、今を見ることが大切だ。

「おはよう、玲。今日は何をする?」俺は寝ぼけながらも、霧嶋さんに問いかけた。

「引越し」優雅な朝から霧嶋さんはなんとも大胆な事を言った。まさかの『引越し』と来ることは、誰も予想はつかないだろう。

「ん?引越し?」まだ、夢の中なのかと思った。だって、車も新しい家もないから。

「心配しないで、引越し業者も家もあるよ。いきなりだけど、尋也には不便させないから」そう言って霧嶋さんは鍵を俺に渡した。

「え?引っ越すってどこに…」

「大っきいタワマン!お母さんがくれたの部屋一つ。」満面な笑顔で言うから、惑わされてしまうけど、タワマンって…霧嶋家の人はどうなっているんだ。

「俺、そんなお金ないよ…」

「お金の心配はしないで、お母さんが通帳作ってくれたの。」そうだ…お金は余るほどあるんだった。霧嶋さんといると金銭感覚おかしくなりそうだ。

「でも、玲だけに任せるのも良くないよ。」俺はフリーターだ。4畳あるか無いかの部屋で暮らすのが精一杯。それな俺がタワマンなんて夢のまた夢のまた夢。

「そっか…なら、就活すればいい。」

「そんな、簡単なことじゃないよ…俺、高卒だし、今フリーターだよ?それに、取り柄なんてない。」

「いいえ、そんなことない!日本だけよ、資格や経歴だけで物事を判断するのは。やるだけやってみる。頑張った分だけ力になるの、例え逃げ出したとしても。」霧嶋さんはむちゃくちゃだ。でも、ちゃんと前え進もうとしてる、俺みたいにずっと動かない人じゃない。ちゃんと行動に移せる人だ。

 霧嶋さんはスマホを取り出して、誰かに電話していた。

「お母さん。頼みたいことがあるの。尋也にあった仕事を探しているんだけど…そう、わかった。ありがとう。また、かけます」俺の話、かなり強引過ぎるけど…

「尋也…一歩ずつでいいんだよ、尋也がやりたいって思った時いつでも、尋也を歓迎してくれるから。でも、今は引越し」

 霧嶋さんはかなり強引だけど、ちゃんと俺の事を考えてくれている。霧嶋さんの人脈には計り知れないものを感じたけど、前よりずっと、考え方が良くなった。

 新宿区 西新宿

「えっと…これタワマン?なんかの会場とか、デパートとかじゃなくて?」

「なんか、豪華だね。まぁ、部屋に行こ」

 俺は、想像遥かに超えるマンションを見て、驚きながらも部屋に行った。

 

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