誘い

中身をそっと出す霧嶋さんだが、手に持っているのは大量の一万円だった。厚さからして100万は超える量だと思う。100万の束なんて持ったことは無いが、ドラマやニュースでなら何となく分かる。しかし、この箱全部にお金があるとするなら、少なくとも300万はある。

「あっ、えっと。どうしたの?このお金」

「今は言えません。でも、盗んだり悪いことして得たお金じゃないです。心配しないで受け取ってください。」

 そう言って、一万円を渡してきた。

「いや、多いよご会計四千円ぐらい出し、子供が大人にお金を払ってもらうのは、当たり前だよ。」

「ダメです、お金に関してはちゃんとしないと。それに、泊まらせてもらったお礼も含んでますから。」

「受け取れない。というか…ここに、いて欲しいって思ったから。嫌じゃない、むしろ嬉しいよ」あまりの同様で、口走って決まったが、本性には変わりない。

「ここにいてもいいんですか?」霧嶋さんが、驚いた顔でそう言ってきた。

「当たり前だよ。きり、玲がここにいたいと思うならずっといていいよ」霧嶋さんがいたいと思うならだけど。

「じゃ、一つわがまま言ってもいいですか?」霧嶋さんのわがまま…なんでもいい!可愛い!

「なんでも言って」

「その、服とか化粧水が入ったスーツケースが家に合って、それを取りに行きたいんですけど、一緒に来て貰えませんか?」霧嶋さんの家に行く…行っていいのか?着いてきて欲しいって言ってるんだからいいのか。

「いいよ、車持ってないんだけど、歩きで行けたりする?」こんな時に車持ってたら、どこにでも連れて行ってあげるのに。ペーパードライバーにはどうしようもない。

「大丈夫です。電車でも行けますし。」

 足立区 谷中

「電車で来れるって、本当だね。玲の家ってどのへん?」電車に乗ってからだけど、霧嶋さんの顔が少し強張っているように見える。前に、『両親はしないも同然』って言ってたけどそれが関係してるのかな。だとしたら、早く取りに行って帰ろ…

(北綾瀬、北綾瀬、お出口左側…)

「着いたよ。」

「あっ、ごめんなさい。行こ。」

 そこから10分ぐらい歩いただろうか。霧嶋さんはずっと俯いて、一言も話さなかった。

「着いたよ。尋也は、ちょっと外で待っててもらってもいい?」まだ、親御さんに合わせるのは早いよな。まぁ、取って戻ってくるぐらいだし、そんなに時間はかからないだろう。

「分かった。待ってるよ。」

 霧嶋さんは、深い深呼吸をして家に入った。外装は、普通のアパートといった感じで、少し寂れているぐらいだった。ただ、霧嶋さんの入った家だけ嫌なオーラを放っているのは普通ではなかった。

 霧嶋さんが入って2、3分たった頃に部屋からドタドタと物音がき声出した。そのうち、霧嶋さんの声も聞こえてきた。

(離して!!本当にウザイってば。もう、この家は必要ないし、あんたも必要なくなった。だから、付きまとわらないで。関わりたくない)家族喧嘩だろうか。話し相手との不仲具合がよくわかる。その声は事大に大きくなり、入口近くまでよく聞こえる。

「じゃ、最後に1回ぐらいヤラせろよ!!ずっと住まわせてもらって、何もなし?」)

「散々オナホにしたくせに、今更なに?感謝しろって酷すぎない?そもそもそ、家出少女狙って強姦してるような人とずっといたいと思う?」

霧嶋さんの話す相手は、家族とは言いがたい似てなさで、腹違いという可能性もあるが、霧嶋さんの話し方と言い、嫌悪感はきっと、何らかの事情があるのだろうと思った。

「玲?どうしたの?」俺は、霧嶋さんを守るように間に入った…

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